四人目は誰か?1 ハヤトの偵察、もしくは暗殺のためじゃないの?
「えっ」
俺は一瞬、この榎本って子が、冗談を言ってるのかと思った。
しかし、どう見ても顔は真剣だし、俺とマイをおどおどと見比べている。
マイが眉をひそめて、「沢渡佳純さんという名の、同じ中等部一年と仲良くなかったの? 確か、わたしがハヤトさんとバリケードの内側に戻った時、もう一人入れて、三人で抱き合ってた気がするけど」とより詳しい指摘をした。
これに対しても榎本さんは「あの校舎の中では、仲良しの子が一人いましたけど……沢渡さんって子じゃないです。秋口って子です」とか細い声で言う。
俺は復活待機リストを調べて、「秋口彩華って人かな?」と尋ねてみた。
「そうです、そうですっ」
ようやく勢い込んで榎本さんが頷く。
「あたし達、黒崎先輩の提案に乗って、あの校舎から避難所みたいなところへ脱出したんですけど、その後すぐ、自宅を見に行くために、ひとまず四人で街へ出て――」
「待って」
俺はそこで止めた。
「四人というと、榎本さん本人と友人の秋口さん、それと黒崎で三人だと思うけど、最後の四人目は?」
「あ……最後の四人目は……それはええと……」
眉根を寄せて考えていた榎本さんは、少しずつ顔が恐怖に歪んできて……ガタガタ震え始めた。
「四人目……思い出せないけど、その四人目の子にあたし達は全員、外で殺されて」
そこまで言った途端、また頭を抱えてうずくまってしまう。
しまいには悲鳴を上げ始めた。
「いやあああああっ。殺されるっ、あの子に殺されるぅううううっ」
「ちょっとー」
エレインが慌てて駆け寄ろうとしたが、マイが先に駆け寄り、自分もしゃがんで榎本さんを抱き締めた。
「そう……怖い思いをしたのね? 無理に思い出さなくていいから、落ち着きなさい、ねっ」
俺もエレインも、いやチュートリアルでさえ……その場に凍り付いたように立ち尽くし、動けなかった。
結局、榎本さんは半時間ほどしてようやく落ち着き、このキャンプじゃなくて、避難所で待機中の生徒や先生達と合流することになった。
俺が、彼女を蘇らせた経緯を説明し、ざっとこれまでのことも教えたのだが、とにかく本人は二度と外へ出たくないようで、避難所で待機することを、早々に承諾したからだ。
チュートリアルが榎本さんを連れて、避難所の方へ行ってる間に、俺達はまたソファーに戻って不景気な顔を見合わせた。
エレインに、校舎に籠もっていた時の前後の状況を説明してから、しばらく誰も発言しなかったが、俺が咳払いして口火を切った。
まさか、今の有様をなかったことにできないしな。
「榎本さんの発言を信じるなら」
俺はゆっくりと意見を述べる。
「こことは別の避難所に生徒達を案内した後、黒崎は約束通り、榎本さんと友人の秋口さん――それに、榎本さんが忘れた四人目の生徒を伴い、街へ出た。もちろん、自宅の様子を見に行きたいという、彼女達の要望に応えたわけで、その最初のグループとして三名を連れ出したわけだな。しかし実際には、外へ出た時点のどこかで、黒崎を含めて三名が殺されたと」
「あれからちらっと聞きましたけど、誰が犯人にせよ、他の三人が抵抗する暇もなかったそうです……もちろん、黒崎さんも。背後から襲われて、なにをされたかわからないうちに、もうやられていたとか」
「その四人目ってのが、サワタリ・カスミって子じゃないの? 最初は仲よさそうにしてたんでしょ、さっきの子と?」
エレインがきょとんと言ってくれたが、実際に沢渡さんと接してきた俺やマイは、そうそう簡単に割り切れない。
話を聞く限り、彼女が一番怪しそうに思えてもだ。
「仮にだ、沢渡さんが問題の四人目だとすると、彼女は二人の友人の記憶を一時的に操作し、あえて元から仲良しだったように装い、そして俺達と別れた後に本性を見せたことになる。そしてなぜか、黒崎とあと二人の生徒を殺してしまった。……あの子がそんな真似をする理由が、どこにあるんだ?」
「後半はともかく、最初はハヤトの偵察、もしくは暗殺のためじゃないの?」
「はあっ?」
「――有り得ますね」
俺とマイの声が重なったが、俺の方はあくまでも純粋な驚きである。
「俺なんか」
「ごめん。悪いけど、この際ハヤトが自分のことをどう思っているのか、それはどうでもいいのよ」
エレインは非情にも俺の発言を封じた。
「あたしから見れば、ハヤトの戦闘力は驚きを越えて、有り得ないレベルだわ。チュートリアルさんが、『事前に見つけた中ではベストです』って言ってたのも、当然だと思ったもの。なら、他の女神、あるいはもっと危ない存在がハヤトに目を付け、偵察するか始末するかの目的で接近しても、不思議はないわよね?」
「……うっ」
いや、そんなしれっと言われても。