ハヤトの謎1 ハヤトにはいろいろと謎がありますね
ちょうど、エレインがチュートリアルから、地下トンネルで自分が退場した後の話を聞いていて、ところどころで「えぇええっ」と大仰に驚いていた。
当然ながら、退場した自分の救済措置として、混沌が後でなにかくれるという部分に、一番興味津々だったが。
「ということは、明日くれるのかなぁ? もらえるものなら、ぜひもらいたいわー。レベルも置いて行かれたしぃいい」
などとでっかい声を出して、物欲しげに俺を見る。
「いや、俺に言われても。……まあ、明日街に入った時点で、もらえるんじゃないかー?」
適当に答えておく。
ちなみに、エレインが俺の左隣で、マイが右隣、そしてチュートリアルが今、正面のソファーに座ったので、まさに俺は女の子に囲まれた状態だ。
女の子慣れしてないっつーのに。
ひたすら紅茶のカップに注目していると、チュートリアルがいきなり発言した。
「でも、ハヤトにはいろいろと謎がありますね」
「は?」
俺が眉をひそめると、マイが大きく頷いた。
「同感です。高校生とは思えない戦闘センスだと思います」
「そうよね、やっぱりそうよね!」
エレインまでっ。
「だいたい、短期間で元騎士だったあたしより強くなるって、納得できないわっ」
「いや、それを言うなら、マイもエレインのレベルを抜いてるぞっ」
俺が慌てて主張すると……あ、落ち込んだ。
「わたしの場合は、同じパーティーであるという、恩恵のせいですよ」
マイが生真面目に首を振る。
「やはり、みんなそう思いますか。実は、最初から目を付けていた私にしても、ちょっと意外なことが多いですね」
「チュートリアルまでよせやい」
俺はたまらず、抗議した。
「まだこれから強敵もいるだろうに、俺が増長したら、どうする!?」
「いえ、ハヤトさんはそういう性格じゃないと思います」
いつのまにか俺とぴったりくっついて座るマイが、やたらと確信ありげに首を振った。
「これまで、ご自分で才能に気付いたことはないんですか?」
「ないない、そんなのっ」
俺は笑って手を振った。
「体育の成績は確かによかったけど、それだけだと思うぞ」
「それだけでは、説明のつかない部分がありますよ」
チュートリアルがヤケに真剣な顔で俺を見た。
「そもそも、この疑似ゲームが開始する直前、当然ながら私はハヤトに話しかけ、一人で別行動を取らせるつもりでした。さもないと、最初に襲われた時点で、他の生徒の巻き添えに遭いかねないと思ったので。しかし……実際には、あの騒動が起こる寸前で、ハヤトは自ら教室を出て、安全圏へ逃れてしまった」
「お、俺かぁ? いや、あれはあんた、授業で当てられるのが嫌で――」
そこまで述べて、俺はふと考える。
……確かに、当てられるのは好きじゃないが、いつもトイレに逃げるかというと、答えはノーだ。
本当にトイレに行きたい時は別だが、そうじゃなきゃ、当てられても「わかりません」と即答する方を選ぶ。一番、手間が省けるからな。
それに、その方が女子に笑われずに済む。
あの時俺は、どうして赤っ恥かいてまで、トイレに逃げようと思ったんだろうか。
あの時あの瞬間、なにか嫌な気がしたのは事実だが、その「嫌な気」を、俺は当てられるめんどくささと誤解して考えてなかったか?
……などと、影響されやすいせいか、すっかりその気になって考えている俺を、女の子達が全員で見つめていた。
プレッシャーになるから、やめてくれ。
「そういえば」
またマイがぽつっと言った。
「わたしは本当の家族はもういませんし、学費を援助してくださる親戚は都外なので、あまり自宅の心配はしていませんけど――ハヤトさんも、似たような事情でしたよね、確か」
マイらしく、遠回しな言い方だった。
俺は苦笑して答えた。
「ちょっと前に助けた沢渡さん達と違って、俺が全然自宅の心配しないから? 話さなかったかな? 俺の両親はもう離婚してて、俺は一人暮らしなんだよ。普段の生活費は、二人からの振り込みでやりくりしてて――」
そこまで言いかけ、俺はふっと言葉を切る。
いや、今説明しようとしたことは、嘘ではない。両親は離婚済みだし、毎月の生活費は振り込みで来る。
ただ……改めて考えてみると――
「ぬうう」
俺は思わず唸り、頭を抱えてしまった。
よくよく考えると、だんだん妙な気がしてきた。だいたい、俺が両親に最後に遭ったのは、いつだったっけ?
深刻な空気を嫌ったのか、チュートリアルが口を挟んだ。
「まあ、いいでしょう。とにかく、ハヤトは私の想像以上に戦ってくれていますし」
「そうですね、この話はやめておきましょう」
「いろいろ事情あるものねー」
チビ女神様に続いて、マイもエレインもあえて話を変えようとしてくれた。
心遣いは嬉しかったけど、このことは結構、大事な事柄の気がする……一人になった時、自分でもちゃんと考えてみないと。