表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/109

ハヤトの謎1 ハヤトにはいろいろと謎がありますね


 ちょうど、エレインがチュートリアルから、地下トンネルで自分が退場した後の話を聞いていて、ところどころで「えぇええっ」と大仰に驚いていた。


 当然ながら、退場した自分の救済措置として、混沌が後でなにかくれるという部分に、一番興味津々だったが。




「ということは、明日くれるのかなぁ? もらえるものなら、ぜひもらいたいわー。レベルも置いて行かれたしぃいい」


 などとでっかい声を出して、物欲しげに俺を見る。


「いや、俺に言われても。……まあ、明日街に入った時点で、もらえるんじゃないかー?」


 適当に答えておく。

 ちなみに、エレインが俺の左隣で、マイが右隣、そしてチュートリアルが今、正面のソファーに座ったので、まさに俺は女の子に囲まれた状態だ。


 女の子慣れしてないっつーのに。


 ひたすら紅茶のカップに注目していると、チュートリアルがいきなり発言した。




「でも、ハヤトにはいろいろと謎がありますね」

「は?」


 俺が眉をひそめると、マイが大きく頷いた。


「同感です。高校生とは思えない戦闘センスだと思います」

「そうよね、やっぱりそうよね!」


 エレインまでっ。


「だいたい、短期間で元騎士だったあたしより強くなるって、納得できないわっ」

「いや、それを言うなら、マイもエレインのレベルを抜いてるぞっ」


 俺が慌てて主張すると……あ、落ち込んだ。


「わたしの場合は、同じパーティーであるという、恩恵のせいですよ」


 マイが生真面目に首を振る。


「やはり、みんなそう思いますか。実は、最初から目を付けていた私にしても、ちょっと意外なことが多いですね」

「チュートリアルまでよせやい」


 俺はたまらず、抗議した。


「まだこれから強敵もいるだろうに、俺が増長したら、どうする!?」

「いえ、ハヤトさんはそういう性格じゃないと思います」


 いつのまにか俺とぴったりくっついて座るマイが、やたらと確信ありげに首を振った。


「これまで、ご自分で才能に気付いたことはないんですか?」

「ないない、そんなのっ」


 俺は笑って手を振った。


「体育の成績は確かによかったけど、それだけだと思うぞ」

「それだけでは、説明のつかない部分がありますよ」


 チュートリアルがヤケに真剣な顔で俺を見た。


「そもそも、この疑似ゲームが開始する直前、当然ながら私はハヤトに話しかけ、一人で別行動を取らせるつもりでした。さもないと、最初に襲われた時点で、他の生徒の巻き添えに遭いかねないと思ったので。しかし……実際には、あの騒動が起こる寸前で、ハヤトは自ら教室を出て、安全圏へ逃れてしまった」


「お、俺かぁ? いや、あれはあんた、授業で当てられるのが嫌で――」


 そこまで述べて、俺はふと考える。

 ……確かに、当てられるのは好きじゃないが、いつもトイレに逃げるかというと、答えはノーだ。

 本当にトイレに行きたい時は別だが、そうじゃなきゃ、当てられても「わかりません」と即答する方を選ぶ。一番、手間が省けるからな。


 それに、その方が女子に笑われずに済む。


 あの時俺は、どうして赤っ恥かいてまで、トイレに逃げようと思ったんだろうか。

 あの時あの瞬間、なにか嫌な気がしたのは事実だが、その「嫌な気」を、俺は当てられるめんどくささと誤解して考えてなかったか?


 ……などと、影響されやすいせいか、すっかりその気になって考えている俺を、女の子達が全員で見つめていた。


 プレッシャーになるから、やめてくれ。




「そういえば」


 またマイがぽつっと言った。


「わたしは本当の家族はもういませんし、学費を援助してくださる親戚は都外なので、あまり自宅の心配はしていませんけど――ハヤトさんも、似たような事情でしたよね、確か」


 マイらしく、遠回しな言い方だった。

 俺は苦笑して答えた。


「ちょっと前に助けた沢渡さん達と違って、俺が全然自宅の心配しないから? 話さなかったかな? 俺の両親はもう離婚してて、俺は一人暮らしなんだよ。普段の生活費は、二人からの振り込みでやりくりしてて――」


 そこまで言いかけ、俺はふっと言葉を切る。

 いや、今説明しようとしたことは、嘘ではない。両親は離婚済みだし、毎月の生活費は振り込みで来る。


 ただ……改めて考えてみると――





「ぬうう」


 俺は思わず唸り、頭を抱えてしまった。

 よくよく考えると、だんだん妙な気がしてきた。だいたい、俺が両親に最後に遭ったのは、いつだったっけ?


 深刻な空気を嫌ったのか、チュートリアルが口を挟んだ。


「まあ、いいでしょう。とにかく、ハヤトは私の想像以上に戦ってくれていますし」

「そうですね、この話はやめておきましょう」

「いろいろ事情あるものねー」


 チビ女神様に続いて、マイもエレインもあえて話を変えようとしてくれた。


 心遣いは嬉しかったけど、このことは結構、大事な事柄の気がする……一人になった時、自分でもちゃんと考えてみないと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ