間奏(続かず) 気になりますし、嫉妬しますよ
「え……」
俺は意外な話を聞き、思わずマイに詰め寄った。
「それって、例えば俺がモリ・ユキを呼び出そうとしたら、本当にあの子が登場するのかっ」
ちなみに、なんでとっさにそのアニメヒロインの名前が出たかというと、たまたま少し前に映画化したのを観たからだ。
「その女性、誰ですか? 会いたいわけですか?」
マイの声がいきなり冷たくなり、アイスドールモード全開になった。
残念ながら、そのアニメは観てないらしい。
あと、なんでいきなり冷ややかになるのか。
「いや、現実に存在しないって。アニメに出てくる子だよ。単なる一例!」
「え……ああ、そういうことですか。ごめんなさい、勘違いして」
「まあいいけど」
元通りの柔らかい対応に戻ったので、俺もほっと安堵する。
アイスドールの視線は、胸にぐさっと来るからな。
ついでに、ほんの悪戯心で、ちょびっと訊いてみた。
「もし、現実に存在する女の子を呼び出したら、気になるわけ?」
マイはなぜか五秒ほど押し黙り、それから横目で俺を見た。
「……ええ。気になりますし、嫉妬しますよ」
「うっ」
まさか、そんなストレートに答えてくれるとは。
思わず返す言葉がなくなったが、マイの方も赤くなって、いよいよそっぽを向いてしまうという。
気まずいことになったが、幸い、チュートリアルがハッパを掛けてくれた。
『はいはい、お二人さんっ。山場を一つ越えたとはいえ、まだ終わったわけじゃないです。そろそろ地上へ上がりましょう。次にキャンプから転送する時、またこのトンネルへっていうのは、嫌じゃないですか?』
「そ、そうだな……うん」
「い、急いだ方がいいですものね」
二人して少し上擦った声を出し、早速先へ進んだ。
ちらっと役立たずのスマホを見ると、案外時間が過ぎていて、少し驚く。
こりゃ、東京タワーまでギリギリかな。
おっかなびっくり進んだが、幸か不幸か、トンネル内ではそれ以上の厄介ごとは起きなかった。俺達はとうとう目的の駅に着き、人気のない連絡通路を通り、さらにまだ動いているエスカレーターに乗り、再び地上を目指した。
地上へ出た後、ようやく真っ直ぐに東京タワーを目指す予定だったが――
「ハヤトさん、後ろをっ」
地下鉄出口から外へ出た途端、マイが声を上げた。
素早く振り返った俺は、思わず「うっ」と声を上げる。なんと、地下で見たあの薄青いフィールドが、背後をぐるっと取り囲んでいた。
ジョンという名のプレイヤーが教えてくれた通り、これは地上部分も覆っていたらしい。
俺は、遠くに見える東京タワーの位置を改めて見て、納得した。
「間違いなく、東京タワーを中心に囲んでるな、このフィールド」
「となると……やはり東京タワーを調べる必要が」
マイが答えた途端、声がした。
『よくぞ、新たなステージに辿り着いた。お主達は、このステージまで来られた、最初のプレイヤーパーティーぞ? 我ら混沌は、汝達の戦いぶりを大いに評価する。正直、この世界を見直しかけているほどだ』
今度はメッセージじゃなく、本当に声だった。
ただし、前に聞いたのとは声が違うので、混沌の中の一人ということだろう。もちろん、こいつも女性の声だが。
「しかし、まさか俺達が一番最初だったとは」
俺の疑問を無視して、声が続けた。
『そこで、せっかくの勇者達に、私から一つ、アドバイスをしてやろう。……悪いことは言わぬ故、今日のところはもう休みにせよ。試練をクリアしたばかりなのに、ここで無理をするのは感心せぬ。なぜなら、このステージは今までとは多少ルールも代わり、より厳しくなるからだ。無理に止めはせぬが、今日は休むがよかろう』
そのまま耳を済ませていたが、声はそれを限りに途絶えた。
「休めって……罠じゃないだろうな、それ?」
俺が疑いの声を洩らすと、マイがだいぶ陽が傾いた空を見上げ、呟いた。
「でも、確かに疲労感はありますね」
「実は、俺もだ。思ったより、遥かに時間過ぎてるしな」
マイの言葉に、現金にも俺は救われた気がした。
「ちょうど、『部屋を観に行ってやるよ』と約束した一軒が、確かこの近所にあったから、そこに寄ってから、一旦戻る――いや、キャンプしようか」
「それがいいと思います」
マイもほっとしたように賛成してくれた。
「よし、決まりだ。なら、念のためにまたマップを確認して――うっ」
話しながらマップを眼前に広げた俺は、有り得ないものを見て、ぞっとした。
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「好きだった同級生が自殺した十年後、遅すぎる告白を受けた俺は、過去に戻ってハッピーエンドを目指す!」
……という、長いタイトルの新作を出してますので、よろしければ。
内容は、ほぼタイトルのままですね。