新たな力2(終) 本当の意味で、なんでもアリですね
本当に選ぶ寸前まで迷っていたが、結局、スキルを選択した。
そして、マイはやたらと緊張した顔でタイムアップ二秒前までテキストを睨み、最後はやっぱりスキルを選んだ。
途端に画面全体が消え、以下のメッセージが出る。
【選択はされた。汝達の戦いの行く末に幸運を!】
途端に、また宝箱がパカッと閉まる。
どうやら今度は消えずに、ここに残るらしい。次の挑戦者用だろう。
やはりこのイベントは、人数を絞る分岐点みたいなものだったのかもしれない。
……てなことを考えたのは、あくまで頭の片隅で、俺もマイもその時には必死でステータス画面を開き、スキルの項目を調べていた。
「あった!」
「わたしもですっ」
マイも同じく声を上げる。
「俺のは……召喚術とあるけど? なにそれ? つか、そもそも普通のゲームだと、召喚術なんかデフォルトでついてくるんじゃ?」
『この疑似ゲームに、そんなのないですよ』
幾分驚いた声で、チュートリアルが言う。
『どうやらさっき言ったように、正規ルートには存在しないスキルのようですね。そもそも、なんです、その召喚術とは?』
「……訊くからには、本気で知らないのな。ちょっと待って。マイはどんなスキル?」
「ええと……考えようによっては、よいスキルなのかもです。テレポートでした」
「おおっ」
『驚きましたね! それも、正規ルートのスキルにないですよっ』
俺はともかく、チュートリアルまで驚いていたら、世話ないな。
「ただ、無制限というわけじゃないですね」
少し恥ずかしそうにマイが言う。
「MPを消費しますし、これまでに行ったことのある場所に限定されます」
なにやら自分のステータス画面の文章を読んでいる。
多分、新たなスキルの注意事項だろう。
「とはいえ――」
今度は少し嬉しそうに続けた。
「わたしの身体に触れることで、複数の人数を同じくテレポート可能みたいです」
「そりゃいいっ。今後、多少は楽になるかもっ」
同じく喜び、俺も一応、召喚術とやらのスキルに付属する、注意書きみたいなのを読んだ。
どれどれ――。
【召喚術は、MPを消費して使用する。術者が使役するための、魔獣や戦士を呼び寄せるスキルと定義する。ずっと呼び出しておくことも可能だが、そばにいる限りは、召喚した者のMPが少しずつ減っていくデメリットがある。……呼び出せるものについては、ほぼ無限の可能性がある。なぜなら、無限数の異世界の中に存在する者、その全てが対象故に。ただし、現地では既に亡くなっていることが条件。それに、召喚者より高レベルの者は呼び出せない】
「ちょい待て」
注意書きを読んで、俺は困惑した。
「見ていいですか?」
マイが訊いたので、俺はむしろ「ぜひぜひ」と頼んで、同じく読んでもらった。
ちなみに、チュートリアルも勝手に読んだのか、少しして唸り声が聞こえた。
『この注意事項、よくわかりませんね』
「あんたもそう思うか? ひどく難解だよな、これ」
そこで俺はちらっとマイを横目で見る。
これまでの経緯を考えると、どう考えても、俺よりマイの方が頭がよさそうだしな。
「……自信はないですが」
俺が熱心に見つめているのに気付いたマイが、困ったように微笑んだ。
「なくてもいいよ! おそらく当たってそうな予感があるっ」
「そんな」
いよいよ困惑しつつ、それでも話してくれた。
「多分ですが、説明文の中の『呼び出せるものについては、ほぼ無限の可能性がある』という部分を、そのまま受け止めるべきかと思います。なぜって、呼び出す先は『無限数の異世界の中に存在する者、全てが対象』とされていますから。異世界が無限に存在すると仮定するなら、当然ながら、そこに存在する者は、どんなものであれ、存在し得るということかと」
俺は顔をしかめてしばらく説明を咀嚼し、早々に白旗を揚げた。
「えー、もの凄く分かり易く言うと、どうなる?」
「わかりやすく言えば――」
マイは自信なさそうに俺を見た。
「ハヤトさんが『こういう戦士を呼び出したい』と願えば、現実にそういう戦士がいる世界とリンクして、ここに召喚される……そういうことかと。つまり本当の意味で、なんでもアリですね」