閉ざされた空間1 もちろんナイトよ!
もうほとんど決まりみたいなものだが、それでも俺はマップを立ち上げて確認した。
あいにく、表示制限が数百メートルしかないが。
その範囲内で見る限り、「なにか」を円形に囲んだエネルギーフィールドと、記憶にある東京タワーの位置関係は、限りなく臭いと思える。
「これで決まりだな、挑戦しよう! どうせ、なにがなんでもクリアするのが目標なんだし」
「さっきのスキルの話が本当なら、あたしは異存ないわよっ」
「わたしもありません」
エレインとマイが二人して頷く。
「でも、あたしが死んだら、本当に蘇らせてくれる?」
やたらと心配そうに、エレインは声を低める。
「約束する。対価として身体で払えとか言わないから、安心してくれ」
俺が冗談めかして笑うと、逆に彼女は飛び上がりそうになって驚いた。
「なんで、そういう心配してるとわかったの!?」
「……おい、こら」
本気でそんなこと心配してたのか、この金髪ねーちゃん!
俺がそんな下半身野郎に見えるかっ……て、見えるかもしれんな、くそっ。
文句はぐっと押さえ、まさかのために尋ねてやった。
「チュートリアル、話題沸騰のそのスキル、どのくらいのレベルで入手できる?」
『ハヤトの場合は、レベル30ですね……次のレベルですっ』
それを聞き、俺達の間に笑みが広がった。
「よしっ。こりゃひょっとして、ひょっとするかも!?」
「ハヤトさんには、是非生還してもらわないと」
静かな口調でマイに言われ、ちょっとテンションが下がってしまった。
『私も同じ意見です!』
なんてチュートリアルも言いやがるし。
理屈じゃそうなんだけど……加減して戦うなんて、できないと思うがな。
決意を秘めた俺達が進み、青く染まった空間へと進んでいくのを見て、さっきマイに自己紹介してたジョンを始め、他のパーティーやらソロやらが、一斉にこちらを見た。
一斉にざざっと道を空けてくれて、やたらと目立つ俺達である。
「あんだけ警告したってのに」
ジョンが首を振る。
その、死人を見るような目は、やめてくれ。
「うおっ、もったいねぇえええ。死ぬくらいなら俺と」
わけわからんが、マイを見て物欲しげな顔をする野郎もいた。
だいたいは驚き顔やら呆れ顔やらだが、マイやエレインに目を奪われる者達もいるということだ。そんな連中は「おい、女の子だけでも置いてけー」とか揶揄するように叫びやがる。
いや、実は俺も賛成だけどな。
「あのさ、マイでもエレインでも二人揃ってでもいいけど、なんなら」
「嫌です」
「駄目よ、そんなのっ」
二人して、全部言い切る前に答えたね。
「まだ何も言ってないし!」
「ハヤトさんはわかりやすいですから」
「あたしもそれは思った」
マイとエレインが顔を見合わせて笑う。
……君ら、いつからそんな仲良くなったんだ?
しかしまあ、誰も残らないならしょうがない。
もはや覚悟を決め、俺は先頭切ってまず青い色がついた空間へ入る。
他の二人も続けて入ったが……この時点では、別に何も起こらなかった――が。
「……あれ?」
そこで何気なく後ろを振り向いた俺は、異変に気付いた。
マイとエレインも同じく振り向き、絶句する。
「空間が――」
「閉じてますね」
呆れた俺の言葉に、マイが冷静に続けてくれた。
そう、単なる薄青い色がついたフィールドのように見えたのに、いざ侵入して見ると、その瞬間から背後が見えなくなる。
青い壁のようなものが立ち塞がっていて、戻れないのだ。
試しに触ってみたら、ペシペシと叩けて、マジで壁になっていた。
「挑戦決めたら、もう後退はナシって話らしいな」
俺が憮然として言うと、エレインが眉をひそめる。
「しかも、あそこに集まってた連中の姿はおろか、声も聞こえないわ。あれだけ大勢いたのに」
「もはや、違う次元の空間にいるみたいですね」
マイも油断なく周囲を見つつ、頷く。
俺達はゆっくり進み始めた。しかし、緊張感が続かないのが俺である。
「そういや、エレインのクラスってなんだっけ?」
「今頃、訊くわけっ?」
嘆息してエレインが見る。
「今まで、訊くような余裕なかっただろ?」
「まあ、そうだけど――あたしのクラスはね、もちろんナイトよ!」
ぐっと右手の親指を立てた、渾身のサムズアップで教えてくれた。
ただでさえ高い鼻を、つんと上げたドヤ顔すげー。
「もしかして、昔から騎士の家系とか――」
俺が再度尋ねようとした途端、タイミング悪く変化があった。
【ようこそ、挑戦者達よ。混沌は、汝達パーティーの挑戦を歓迎する。この試練を見事にクリアし、我らが祝福を得るがよい】
いきなり目の前にメッセージ、来ました!
脅かすな、馬鹿っ。