謎のフィールド2(終) こりゃ、どうあっても挑戦しないとっ
心の狭い俺はすぐにむっとしたが、マイ自身はこういう手合いに慣れているのか、至極冷静である。
「はじめまして」
挨拶に応じて低頭したものの、自分の名前は告げないという……おまけに話題変えるの早い。
「それで、ペナルティーは?」
「ああ、それね」
夢から覚めたようにマイから視線を逸らし、ジョンがため息をつく。
「パーティーの場合は、エース以外の一人がその場で退場。ソロの場合は当然、本人が退場。その場で消えてしまう」
「退場って……死ぬってことか?」
俺がぞっとして訊くと、ジョンは哀しげな顔で俺を見た。
「このゲームで退場といえば、そういうことだろうさ」
うわぁ……場が静まり返ったね。
しかし、それも当然だろう。
条件をクリアできなかったペナルティーが、パーティー内の一人を死亡させるって、嫌過ぎるじゃないか。
「俺も最後の一人を失って、めでたくソロになっちまった……元は五名もいたのに」
またまた盛大なため息がっ。
「あんたの不運には同情するとして」
押し黙る俺達を尻目に、エレインが横から割って入った。
「なんでこんな大勢、ここに集まったままなの? 挑戦しないか、しても失敗したなら、引き上げるべきでは?」
「おうおう、いい質問ですねぇえええ」
どっかの番組のコメンテーターみたいな口調で、ジョンが自嘲気味に笑う。
「理由は簡単さ。前方の薄青いエネルギーフィールドは、実はここだけじゃなくて、ぐるりとある地点を囲んでいるらしいんだ。要は、地上に上がっても、似たようなフィールドにぶつかる。そっちはそっちで、宝箱が先にあるって表示が出るんだがね」
それってつまり――
俺が口にするより先に、エレインが天井を仰いだ。
「どうあっても、宝箱イベントをやらせる気なのね……それをクリアしない限り、地上からだろうが地下からだろうが、先へは進めないってこと?」
「多分そういうことだろうな。つまり、一種のふるい落としかもしれない。実力の乏しい者は、この先には無縁だから、死ねと」
ヤケクソ口調でジョンが頷く。
「でも、宝箱自体は十分な数があるのかしら? まさか一個ってことはないでしょ?」
「多分、パーティーだろうがソロだろうが、人数分はあるんじゃないかな」
ジョンが投げやりにいった。
「プレイヤー全員に行き渡るほど宝箱があっても、俺は驚かないな。相手は、うちの世界の女神も敵わない、邪神の混沌だ」
「でも……簡単に突破できない以上、宝箱が幾つあろうと、問題はそこじゃないですね」
マイが落ち着いた声音で指摘した。
「まさしく!」
俺は声に出した後、二人に目配せして、少し集団から離れた。
「作戦タイムだけど……一応、俺の心は決まっている。二人はどうだ? エレインからどうぞ」
「あ、あたしっ!?」
自分の顔を指差した後、金髪のエレインは少し考え、憂鬱そうに述べた。
「挑戦するしかないと思う。どうせ混沌のことだから、どこを探そうと、他の抜け道なんてないわ。どうしてもこのイベントをクリアする必要があるのよ」
「ゲーム終了まで適当にこの辺の魔獣を片付けてる手もあるだろ?」
俺が水を向けると、なぜかエレインはため息をついた。
「……それもいいけど、そもそもゲームクリアまで遊んでたようなプレイヤーを、混沌が目こぼしするなんて思えないわよ。殺される可能性が大ね」
「そんなめちゃくちゃな神様なのかっ」
「あちこちの異世界を襲って回って、こんなゲームまで開催しているのよ? 無茶な邪神に決まってるでしょ!」
むむっ……仰る通りでございます。
俺はぐうの音も出ずに、マイを見た。
「じゃあ、マイはどう思う?」
「挑戦すべきです」
「おおっ」
マイにしては大胆な意見っ。
俺の思いが伝わったのか、マイがわざわざ説明してくれた。
「理由は二つあります。一つは、仮にわたしかエレインさんのどちらかが死んだとしても、ハヤトさんさえ生き残っていれば、いずれ死者復活のスキルで蘇ることができます」
などと説明した途端に、エレインがまた「えぇえええっ」と大声を出した。
「そんな夢みたいなスキルをまさか」
「ちょっと待って」
俺は慌てて、エレインを止めた。
「今はマイの話を聞こう。……マイ、二つ目の理由は?」
「二つ目はあくまでも推測ですが」
マイはもったいをつけた後、あの薄青いフィールドを指差した。
「もしかするとあのフィールドがぐるりと囲んでいるのは、わたし達の目的地である、東京タワーじゃないでしょうか? 位置的に見て、それが自然な気がします」
俺は思わず息を呑んだ。
「それだっ!」
まさに、脳裏に閃光が走った気がした。
言われてみりゃ、モロに目的地の東京タワーが中心っぽいじゃないか!
こりゃ、どうあっても挑戦しないとっ。