移動5 生存者の確認はしなきゃいけない
今度は、中等部の体育館まで辿り着いたものの、俺達は三十メートルほど手前で足を止めた。
なぜかというと、またしても正面の扉が開いていたからだ。
つい数分前に嫌な目に遭ったばかりなのに、同じことを繰り返すのは、大馬鹿過ぎる。
「……開いてるなあ」
「開いてますね」
俺達は顔を見合わせて考え込んだが、やむなく俺が決断した。
見える範囲じゃ、空っぽなんだが、それでも生存者の確認はしなきゃいけない。
「なにも、馬鹿正直にすぐ前まで行って確かめる必要はないわけだよ。もう少しだけ近付いて、遠巻きに覗こう」
「賛成です!」
「よし、じゃあ……そろそろと前進」
俺達は縦に並び、及び腰で扉に接近していく。
もちろん、俺はズボンのベルトに差した刀の柄に手を掛け、いつでも抜けるようにしていた。
両開きの扉が全開なので、左右に細かく動けば、割とよく見える。
しかし、今のところ人の姿も魔獣の姿も――。
「あっ」
ふいに沢渡さんが声を上げた。
「どうした!?」
「いえ……一瞬でしたけど、今、体育館内を誰かがよぎったような」
「魔獣じゃないんだね?」
「違います。歩いてましたものっ」
いや、二本足で歩く魔獣かもしれないぞ? そう思ったけど、俺は口には出さなかった。
暗い話題はもうたくさんだ。
「よ、よし……角度を変えてあちこち見てみよう」
俺と沢渡さんは、二人して右へ左へと移動し、開いた扉の向こうをまんべんなく見渡そうとした。馬鹿みたいに見えるかもしれないが、いきなり接近するのは懲りたからな。
「あ、いたっ」
今度は俺が見つけ、その場で足を止めた。
向こうが見えるか見えないかのギリギリ左端に寄り、体育館内の右奥を覗いた時、大勢が固まっているのを見つけた。
密集して額を寄せ合っているのが謎だが、少なくとも生徒であることは間違いない。
中等部の制服である、セーラー服と詰め襟の制服姿だからな。ちなみに、高等部になると男女揃って制服がブレザーとなるから、容易に判別がつく。
「今度は間違いなく、生徒ですよねっ」
「うんっ。集まってるのは、生き残りの先生と相談でもしてるのかもっ」
俺も弾んだ声を上げ、今度こそずかずかと接近した。
早く合流したいのか、珍しく先に立った沢渡さんが率先して中へ入ろうとしたが、「待った」と声をかけて、止める。
「ね、念のために、ここから声をかけてみよう。連中に何事もなければ、普通に振り返ってなにか言うだろ?」
「そ、そうですねっ。じゃあ、わたしが」
同じ中等部ということで、沢渡さんが声を張り上げた。
「あのーーーーっ、みんな無事ですかあっ」
……応答なし。
男女半々のグループだが、相変わらず丸く集まってわさわさ動いている。
サッカー部の試合とか練習時に、たまにメンバー全員で集まって気合いを入れる場面を見かけるが、まさにあんな感じだ。
しかも、みんなどこかしら怪我をしていたし、制服も破けていた。
「なんだか、ちょっと様子が」
「みぃんなああああ、大丈夫なんですよねええええっ」
「わあっ」
ひ、人が警戒しているのに、返事がないのに焦れたのか、沢渡さんが両手でメガホンつくって、思いっきり叫びやんの。
そして、今度こそ反応があった。
集まっていた全員が、ぱっとこちらを向いたのだ。
そいつらの顔を見た途端、俺は「げっ」と下品な声を上げてしまった。
「え、ええっ!?」
元気に叫んでいた沢渡さんも、たちまち絶句する。