間奏(続かず) 才能限界という壁
「よ、よしっ。そろそろ行くか」
ようやく呼吸を整え、俺は気合いを入れ直した。
今のでまたレベルが上がり……というか、数が多かったお陰か、二つレベルが上がり、レベル29となった。
ライフボールも、前の金星ドラゴンの分も含めて、しこたま集まったぞ!
これでまた、よさげなスキルを揃えるか。
「マイは上がった?」
寄り添うように立ってくれていた、マイにも訊いてやる。
「お陰様で」
マイが申し訳なさそうに頷く。
「最後に辛うじてサポートできただけなのに、二つも上がって、レベル19です」
「おおー、マイも強いよなー」
お世辞じゃなく褒めてる途中で、エレインが慌てて追ってきた。
「う、さりげなく並ばれてるし!」
マイの申告を受けて、勝手にショックを受けていたりする。
「あんた達――というより、あなたよ、ハヤトっ」
なぜか、特に俺を指差す。
「明らかに異常なステータスだわ。同じパーティー内だから、スキル以外の項目はざっと見ることができたけど、才能値が計測不能になってるじゃない! ということは、限界値である【999ーS】を越えているってことよっ。神様にだって、才能値が設定されているのに」
「いや、そんな力説されても、その数値がどういう意味を持つのか、わからんしな」
とはいえ、女神にも才能値があるのかー。
などと、俺はあくまでのんびり構えていた。
「わたしの才能値だと、【96ーA】となっていますね。チュートリアルさんが前に教えてくださった通り、クラスAですか?」
マイが自分のステータスを調べて申告した途端、エレインの驚くこと驚くこと。
「なんてことっ、あたしはクラスBだっていうのにっ」
「どういう計算式だよ、その才能値って?」
「通常、EからSまであって、それぞれ三桁の数字で評価されるのよ。人間の身で、S以上の数値が存在するなんて、あたしも今日初めて知ったけど」
エレインがなにやら不満そうに言う。
俺達の不思議そうな顔を見て、詳しく教えてくれた。
「たとえば、最初の才能値がEクラスの【21ーE】だと判定されたとして、Dクラスに上がるには、【999ーE】を越えないと駄目ってこと。でも人間である限り、どれだけ戦闘経験値積もうと、才能限界という壁に当たるの。そうなると、もうそれ以上は上達しないわ。大抵は一生を終える間に、クラスが一つ上がればマシな方だと思う。DからCとか、そのあたりが通常の限界値でしょう。マイはクラスAだっていうけど、その才能値でさえ、うちの元隊長のレベルだもの」
「マイはなんとなく信じられるな、うん。動きを見ていたら、とても素人とは思えんし」
あと、忍者姿で戦うととてもセクシーだと思ったが、これは言わずにおく。
俺もそこまで馬鹿じゃない。
「いえ……驚くべきは、ハヤトさん本人だと思いますけど」
マイがなにやら眩しそうに俺を見た。
「まあでも、自分の力量についちゃ、あんまり信じてないんで。所詮、数字の上だからな」
「でも、スキルの加速なんか使ったでしょ? そんなスキル、普通は取得できないのよ」
またまた、不満そうに言われたが。
「え、これってレベル上がったら、自然と取得できるようになると思ったけど?」
『あいにく、それはハヤトの場合のみです。他の人……たとえば才能値クラスAのマイの場合だと、加速スキルを得るためには、今の倍くらいのレベルがいるでしょうね』
久しぶりにチュートリアルが口を挟んだ。
『最初に言ったはずですよ? 貴方の才能値は、他の誰も及ばないほどだと。正直、私は今でも疑問なのです……今だから白状しますが、この私もハヤトに及びません。普通はすぐに取得できないスキルを得ることができるのは、そのとんでもない才能値のお陰ですね』
マジかよというか、どこか嘘臭いな。
俺は多分、かなり疑い深い顔をしていたはずだ。有り得ない話だしな。
「才能ってなあ……雲を掴むような話だし」
「才能は馬鹿にできないと思います」
意外にも、マイがチュートリアルの肩を持った。
「仮に同じ時期に野球を始めたとして、その誰もがプロ入りできるとは思えませんし」
「野球、好きなの?」
「いいえ……わたしが一番苦手なスポーツだったので、つい」
「なるほどー」
そうか、ここで某アイドルグループなんか例に挙げると、イヤミに聞こえるものな。
「このパーティーに出会ったのは幸運だったかも」
俺の懐疑的コメントを無視して、エレインがそんなことを言う。
「優勝できる可能性もあるかもっ」
嬉しそうな声を聞いて、俺は思い出した。
「ちょっと待って。確か混沌が願いを叶えるのは、担当女神を含めて、パーティー内の二人までじゃ?」
「ああっ」
いきなり態度が豹変して、頭を抱えるエレインである。
「そ、そうだったわ! あたしだけ、のけ者じゃないのおっ」
きっと涙目で俺を睨む。
「いや……睨まれても困るんだが」
そこで無情に、マイが告げた。
「またマップに複数の反応ですっ。今度は全員がグレー光点……プレイヤーですね!」
俺達は馬鹿話を中止し、たちまち緊張した。