暗闇に潜む怪物2(終) あなた、ホントに初心者じゃないのねっ
「ちょっと待ってくれ、どんな魔獣か確認するっ」
俺は例によって、マップ上の光点を指で触り、表示を見た。
「……また、連中かっ」
表示を見た俺は、うんざりした。
【感染人間改:レベル18(敏捷性Bプラス)HP2845 MP1204】
自分でもマップで確認したのか、エレインが眉をひそめる。
「ただの感染人間じゃなくて、さらに上位種みたいよ? まずいわね……あたしがレベル19だから、数を計算に入れたら、向こうの方が上だわ」
それを聞いて、俺とマイはそっと視線を交わした。
今、俺がレベル26……いや、さっきまた上がったから、レベル27で、多分マイはまだレベル17のはず。
俺達まだまだヒヨッコとか思ってたけど、もしかして現状のレベルはそう悪くないのか? そういや大金星だって、ドラゴン倒した時にチュートリアルも言ったしな。
「エースはどっち!」
ふいにエレインが尋ねかけ、自分でマップを見て頷いた。
「貴方の光点が映ってない……やっぱり、ハヤトがエースだったのね。最初から、妙に強いと思ったわ。じゃあ、作戦はっ?」
緊迫した声で訊かれ焦ったが、俺は即座に決めた。
自分が一番上のレベルだというなら、それなりの責任を果たすべきだろう。
「まず俺が試すっ。二人は後から頼む!」
「馬鹿なこと言わないでっ。あの数相手なら、元騎士としては撤退を推奨するわよっ。囲まれたら、終わりじゃない!?」
「いや、逃げない。それだけ時間のロスになるからなっ」
俺はきっぱりと告げ、魔剣(刀)を抜いた。
「先に行くっ。加速レベル2!」
「嘘よっ。スキルの加速なんて――」
まだなにかエレインが言ってたし、最後の最後にマイが叫んだ気がしたが、俺は構わずスキルを使い、ぐんっと加速した。
反動で疲れが出るからあまりやりたくないが、数の優位性を崩せるとしたら、これくらいしかないはずだ。
しかし、走り出した途端、悟った。
マップの光点は、結構な速さでこちらへ接近している。発見してから数百メートルの余裕があったはずなのに、今や指呼の距離だっ。
それでも俺は加速を解除しなかった。
微かにキィィィンというハウリングのような音が響く中、俺は全力疾走で突っ込んでいく。
やがて、敵が見えた。
例によって斑点顔の元人間達だが、こちらはさらに、服から覗いている肌は、すべてブクブクと膨れあがっている。そのせいで、より凶悪に見えた。
加速状態とはいえ、俺に気付いたらしく、先頭を走る凶悪そうな女がまっすぐこちらを指差し、何か喚いた。
あいにく、加速状態にある今は、全然まともな言葉として伝わらない。
「聞こえないなぁああああ!」
俺は全く速度を落とさずに突っ込み、まず先頭の一人、いや一匹の首を刎ねる。そして、返す刀で斜め後ろのもう一匹、これで二匹。
さらに、飛び上がってトンネルの壁を蹴り、そのままあらぬ方向より、集団のど真ん中に着地した。
無論、着地する刹那に、もう一匹斬っている。
これで三匹!
「今こそ、入手したばかりの魔法を使う時だよなあっ――ライトニング、レベル3!」
魔法レベル3の雷光を周囲に放ち、連中の戦闘力を一旦奪った。
直撃を受け、ゆっくりとスローモーションのごとく連中が倒れていく中、俺は魔剣を振りかざしてざくざく斬っていく。
我ながら残酷だと思わないでもないが、有利な状況の時にこそ、数を減らさないと。
加速はいつまでも保ちはしないのだからっ。
何匹斬ったか、途中から全然覚えていないが、少なくとも最後の二匹は、マイが倒したらしい。加速が切れて全てが状態復帰した時、後ろにマイがいて、二匹がそばに倒れていたからだ。
もっとも、例によってすぐに消えたけど。
さすがに息が切れていて、俺はその場でしゃがみ込んだ。
「はあはあっ……もう、あまり使いたくないな、これ。長時間はヤバい」
「大丈夫ですか」
どこに持っていたのか、マイが薄青いハンカチを出して、俺の汗をしきりに拭ってくれた。
「汚れるよ、ハンカチが」
俺が苦笑すると、マイが真顔で言った。
「ハヤトさんのためなら、いいんです」
う……後輩よ、君が真面目にそんなこと言うと、腰の辺りがずきっと来るから、遠慮してくれ。
「どういうことなの!? あなた、ホントに初心者じゃないのねっ」
追いついてきたエレインが、なぜか目を細めて俺を見下ろしていた。
「なにがさ?」
俺は呑気に訊いたが、彼女はそのまま、無言で自分のステータス画面を立ち上げ、なにやら調べていた。なんとなく、俺のステータスを探ってる気がしたが、今はとにかく疲れた。
マイが横にいるんで見栄を張っていたが、そうでなきゃ、ぶっ倒れてたに違いない。
昨日告知した新作、ジャンルランキングに入っていました。
どれほどの方が本作と平行して読んでくださったのか不明ですが、とにかくありがとうございます。