暗闇に潜む怪物1 少なくとも二桁以上だっ
しかし、どうせ地上へ出れば目的地はバレる。
そこで俺は、ざっとこれまでの事情を話し、当面は東京タワーへ向かうつもりだと告げた。
「へぇ……そこは、まだあたしも向かってないから、丁度いいかな」
うんうんと気軽に頷き、それからふいに小声で尋ねた。
「それで、このパーティーを管理している女神は誰? あたしの知る限りでは、この世界の人でゲームに参加しているのって、初めて見たけど」
「いや、ところが俺達以外にも、最低もう一人いるよ。ソロかパーティーか知らないけど。それで、質問に質問で返して悪いけど、パーティーが全滅したなら、そっちの担当女神は?」
「ああ、それなら全然問題ないの。豊穣神メリルが担当だったけど、あたしが参加を申し出たのは、この世界と道を繋げるギリギリ間際だったし、あたしはまだ、メリルの信徒にすらなってなかったわ。貴方達の言う試用期間みたいなものね」
エレインはやたらと悩ましいため息をついた。
ていうか、さっきの俺達の話、聞こえてたのな。
「パーティーはあたしを含めて四人いたけど、他の人の名前も覚えきれないうちに、今朝ドラゴンに襲われちゃって」
「それって、ウイングドラゴンって奴?」
「そう、そいつ。いきなりブレスで一掃されて、見も蓋もなく三名即死。辛うじて避けたあたしは助かったけど、他の人のカバーに回る暇もなかったわね」
はああっとまたため息をつく。
「あんた達も、あのでっかいのが空から急降下してきたら、とっとと逃げなさいよ。ドラゴンだけは、相手にしちゃ駄目」
「お、おぉ……」
その忠告は遅いわー……俺は余計なこと言わずにただ頷いたけど、マイはやたらと満足そうに微笑んでいた。
だけどまあ、戦ったら今度も勝てるとも限らないんで、逃げるのは悪くない手だと思うが。
「それで、本当にひどいのはここから」
いきなり悲嘆に暮れたエレインが、盛大に顔をしかめた。
「パーティーがあたし一人になった途端、女神メリルは、あのパーティーに見切りをつけて解散宣言なんかして。ひどいと思わない? まだあたしがいるのに」
「……エレインさんを見捨てた女神は、どうしたんです? 他にもパーティーを管理しているとか?」
「そりゃそうよ」
あっさりとエレインが頷く。
「仮にも女神が、一組のパーティーしか管理してないわけないし。メリルだけで、二十組くらい管理してたような。それでも少ない方だけど?」
「へぇえええええええ」
相槌打ちながら、こりゃ俺達だけしか見てないチビ女神様が膨れるかもなぁと俺は思ったが、案の定だった。
『どうせ私は神力を失ったせいで、そんなたくさん管理できませんようっ』
おお、ホントに拗ねたぞっ。
子供のような膨れっ面が目に浮かぶようだ。
俺が苦笑した途端、エレインが慌てたようにきょろきょろした。
「い、今の女神の声? メッセージだけじゃなくて、直接話しかけたりするの!?」
「しますとも。チュートリアルは、うちのパーティーメンバーのごとく、ガンガン話しかけてくるぜ」
「お陰で、和んでいます」
マイも遠回しにチビ女神様を褒めた。
「ちょっと、チュートリアルなんて名の女神は」
『今だけの仮名です』
俺が説明する前に、素っ気なく本人が答えた。
『言ったはずです、今の私は神力のほとんどを失っていると。であるなら、下手に名前を明かすと、他の女神が自分の管理パーティーを使い、真っ先に狙ってくる可能性があるでしょう。その場合、私だけじゃなくてハヤト達にも迷惑がかかりますからね』
「なるほど……それならわかるかな」
悲痛なチュートリアルの説明に、エレインは同情の表情を見せた。
「混沌が私達の世界に襲来してからこっち、明らかに昔とは事情が違うものね。女神同士だって敵だわ」
「そう思うなら、エレインもチュートリアルの信徒にならないか? 俺とマイは既に信徒になることを了承してるけど」
「……まだ名前も知らないし、なんの女神なのかも不明なのに?」
おお、呆れた顔されちまった。
だけど、別に俺は動じなかったな。
「どんな事情がチュートリアルにあろうと、俺は彼女のお陰で助かったようなもんなんだ。だから俺も、少しでも役に立ちたいじゃないか」
「私も、ご恩返しはしたいですね」
『い、いえ……前にも言ったように、神力の落ちた今の私には、ハヤトやマイの力添えが大いに必要なんです。だから、お互い様ですよ』
「じゃあ、今はお互いに支え合うってことでいいじゃないか」
俺は柔らかく答えた。
マイがなぜか微笑して俺を見たが、懐疑的だったエレインまで、ちょっと破顔して俺を見た。
「貴方、顔の割に爽やかな人ね」
「顔の割には余計だよっ――ととっ」
文句言いかけた俺は、視界の隅に出したままだったマップの異変に気付き、声を張り上げた。
「赤の光点が見えるっ。魔獣らしい!」
「数はっ」
金髪のエレインが鋭く問い、マイはまるで俺をカバーするように、そっと背後へついてくれた。
「数は……うわぁ」
俺はその場で立ち止まってしまう。
「一匹二匹じゃないな、これ。少なくとも二桁以上だっ」
たちまち、俺達の間に緊張が走った。
新作で、「異世界帰りのロートル(おっさん)英雄、天才少女の保護者となる」という仮タイトルの物語を始めてます。
よろしければ、どうぞ。
……まあ、天才剣士と呼ばれた少女を保護する話? 主人公はさらに上手の引退剣士、みたいな。