パーティー合流希望者1 騎士道精神はどこへ行ったのよ!
しかし、とにかく階段途中ではあるし、いつ背後から追撃が来るかしれたものではないので、俺達は地下鉄のホームに出るまでは、一切止まらなかった。
まあ、マイが止まらない理由は知らないが、俺はあの白塗りの道化みたいなのが追ってくる可能性を考えていたからな。
ようやく、まだ明かりが消えていないホームについたところで、マイと揃って振り向くと……少しバテぎみで足取りが乱れたあの子が、まだきっちりついてきていた。
「だから、さっさと止まってよ! なんで無視して走るのっ」
「いやぁ」
俺が言い訳しようとしたら、マイが先んじて素っ気なく言った。
「貴女が味方とは限りませんもの」
おお、アイスドールの面目躍如といった感じのお返事。
仮に思い切って告白して、今の口調で「いえ、貴方は嫌いですし」とか言われた日にゃ、俺なら速攻、近所の高層ビルに走る自信あるねっ。
相手の女の子も絶句して、しばらく押し黙ったほどだ。
ようやく「敵なら、もう攻撃してるわっ」などとやり返し、びしっと俺を指差す。
「あたしは、この人に言いたいことがあっただけ!」
「お礼なら――」
「そうじゃなくっ」
俺が言おうとしたのを遮り、憤然と言う。
「さっきは、自分でもなんとかできたって言いたかったの!」
「ああ、なるほど……はいはい」
俺は苦笑して頷いた。
別にイヤミではなく、そうかもしれんねと思ったからだ。
俺が助けに入ったのは、あくまでこっちの勝手な判断だからな。魔剣なんか持ってるんだし、そりゃ強いかもしれない……俺と違って。
「じゃあ、余計なことして悪かった。これでいい?」
愛想よく述べた後、マイを見る。
「それじゃ、ホームに降りようか」
「はいっ」
嬉しそうにマイが頷いた途端、慌てたようにその子がどんどんっと足を踏み鳴らす。
「ちょっと、まだ話の続きがあるのよ。勝手に話を終えないでっ」
「なにさ?」
めんどくさくなった俺が促すと、女の子はひどく緊張した口調で言った。
「でもその……とにかく助けてくれてありがとう」
早口で言い切り、そっぽを向く。もの凄く恥ずかしそうだった。
え……なんかこの人、すげー複雑そうな人だな。
あまりにもわかりやすい対応に、俺はむしろ興味が湧いてきた。今時、そんな性格の人が実際にいるとは。しかも、見るからに外人さんだし……外人というか、異世界人か。
「ええと――」
「それとっ」
また俺が、とりあえず「別にいいよ、気にしなくて」的なことを言おうとした瞬間、ささっと割り込む。
「じ、実はここからが本題なんだけど……あたしのパーティーがその……全滅しちゃって。良ければ、合流させてくれないかと」
「うっ」
そ、そんな用件でしたか。
ていうか、いきなり上目遣いで俺を見ないでくれ。
助け船を期待してマイを見たが、この子はまた見るからに「わたしは反対ですけど、なにか!」と言わんばかりに、眉をひそめてるしな。
軽く片手を腰に当てたモデルポーズで。
……関係ないけど、相変わらずスタイルいいな、ちくしょう。腰の曲線が眩しすぎる。
無理に視線を引きはがした俺は、「でも、それなりの腕なら、一人の方が気楽じゃない?」と俺基準で金髪さんに尋ねてみた。反対の立場なら、知らない外人さん達のパーティーに入るのは遠慮したいぞ、俺なら。
「ええっ、それ遠回しに断ってるわけ!?」
なぜか、めちゃくちゃ意外そうに俺を見返したぞ。
さすがに、純白のブレストアーマーとミニスカート、それに背中に紋章つけた白マント着用の女の子だ。
断られるなんて、思ってもみなかったらしい。
「あなた、ひとりぼっちの女の子を見捨てる気っ。騎士道精神はどこへ行ったのよ!」
「いや……高校二年のガキにそんなこと言われてもな」
騎士道精神とか、真顔で言うなよ。
こっちは、男女同権の時代だっつーの。
「あんた――じゃなくて、君は美人だし、頼めば入れてくれるパーティーがいくらでもいるんじゃない? なにも二人ぼっちの俺達に申し出なくても」
「そう、そうですっ」
マイが声を大にして賛成した。
「受け入れてくれる先は、いくらでもあると思いますっ」
「それはまあ、そうなんだけど」
まんざらでもなさそうに答えた金髪さんは、しかしすぐに俺をきっと睨み付けた。
「あたしが美人だって思うなら、なんであなたは断るのよ!」
「断るというか……う~ん」
まさか、「コミュ症だし、二人くらいが丁度いいんで」とも言えない。
「ちょっと、相談させてくれ」
俺はマイに目で合図して、その子から距離を取った。
ただ……マイはどう見ても反対そうなので、困りものだが。