魔獣達と複数パーティーの大乱闘3(終) 思わぬ助太刀
最初の数メートルほどは誰もこっちに気付かなかったが、あいにく、最後まで安泰とはいかなかった。
いきなりどこかから、「おいこらっ、抜け駆けかてめえっ」などど、訳のわからない怒鳴り声がして、直後に「フレイムアロー!」などという、叫び声がしたっ。
「ハヤトさんっ」
しかも、背後のマイまで警告の声を上げた。
俺は嫌な予感がして、そちらを見もせずにさっと腰を低くした。
……そうして、正解だった。
頭上わずか数十センチのところを、文字通りの炎の矢が通過し、地下入り口の手すりに激突したのだから。
危うくこっちの頭が、点火直後のマッチ棒みたいになるところだった!
「み、見境ないのか、おまえっ」
さすがに頭に来て、仁王立ちになった俺は相手に叫ぶ。
数メートルほど向こうに金髪の巨漢が立っていて、こっちを睨んでいたからだ。どうせ、犯人はこいつだろう。
「いきなりなにしやがるっ」
「うるせえっ! 貴様こそ、どさくさ紛れにお宝を頂戴しようなんて、あめーんだよっ」
「はあ? なんの話だ! 俺達はただ、地下に用事があるだけだぞっ」
「……俺達だぁ?」
不審そうな顔になったそいつは、追いついたマイの方を見て、たちまち顎を落とした。
軽薄な男が、度を超えた美人を見た時に見せる驚き、そのものである。
「うおっ。なんという可憐な――」
多分、マイを褒め称えるセリフを連発しようとしたのだろうが、「おいっ」と俺が警告を発してやった直後、横から飛びかかってきた道化みたいな衣装のヤツに飛びかかられ、ナイフでざっくり腹を抉られていた。
せっかく、腹立ちを抑えて注意してやったのに!
「ぐあああっ」
「クキャキャキャッ!」
嬉しそうにザクザクとナイフで刺しまくってるが、し、白塗りの顔したあいつもプレイヤーだよな?
まるっきり、イカれたシリアルキラーみたいだが。
「急ぎましょうっ」
呆れ果てた俺の腕を、マイが掴んだ。
「もう、プレイヤー対魔獣というわけでもなく、文字通りの乱戦になりかけていますっ」
「そ、そうだな、とっとと抜けよう! こりゃマジで関わりたくないや」
うんざりした俺は、また走り出した。
なるべく乱闘中の集団の後ろを通るように駆けたが、あとちょっとで地下への入り口という時に、今度は「きゃっ」と叫び声がして、女の子が俺の眼前で尻餅ついた。
しかも、スカートが短めだったので、思いっきりパンチラしてるしな。
純白のマント姿は置いて、見ればこの子も金髪碧眼である。ただ、手には魔法付与の青く輝く長剣があった。
「汚いわよっ。男の癖に背後から二人がかりで! 恥を知りなさいっ」
この状況なのに、勝ち気そうに叫ぶ。
俺ではなく、まさに今、彼女に向かってくる野郎二人に。
「生きるか死ぬかの戦いに、綺麗も汚いもあるかっ。死ね!」
「殺した後、全部剥いて裸で晒したらあっ」
なるべく関わらないようにしようと思っていたのに、俺はやっぱり無視できなかった。
尻餅の状態から跳ね起きようとする女の子より、目の色変えて追撃してくる野郎二人の方が、どう見ても早かったからだ。
「ああもうっ、順調に進んだ試しがない!」
急停止して踵を返した俺は、やむなく連中の前に立ち塞がり、瞬時に抜刀した。
「女の子より、魔獣の方を片付けろよっ」
「余計なお世話だ!」
突っ込んで来たヤツと否応なく斬り合いになりそうだった。
俺は先制して、下方から魔剣を振り上げ、相手の長剣を思いっきり叩く。
簡単に武器が宙に飛び、敵はあっさりとよろめいた。ただ、その隙に横から斬りかかろうとした二人目は、返す刀で、首筋に斬撃を叩き込んでやるしかなかった。
やりたくなかったけど、手加減したら自分が死ぬタイミングだったのだ。
そいつが仰け反って倒れたところで、また最初のヤツが性懲りもなくナイフを手に飛びかかってきたが、迎え撃とうとした瞬間、マイが投げたナイフが肩口に刺さった。
「いてえっ」
「うるさい、消えろ!」
当然、その隙に俺はそいつの胸板を思いっきり蹴飛ばし、遥か向こうにすっ飛ばしてやる。
たちまち、飛んで来た四つ足の魔獣に噛みつかれ、そいつはドタバタ転げ回っていたが、さすがに胸も痛まないな。
「ごめんっ」
俺は思わず、振り向いて謝った。
「余計な戦いに巻き込んだ!」
「お役に立ててよかったです」
ほっとした顔でマイが首を振る。
「よし、今度こそ入り口はすぐそこだ。行こうっ」
「はい!」
俺とマイは、ようやく入り口の階段を駆け下り、地下鉄のホームへと急ぐ。
ただ……なぜか後ろから駆け足の音が一人分、近付いてきた。
「待ってよ!」
「急ぎましょうっ」
なぜかマイが余計にスピードアップしたので、俺もそれに倣ったが。
……多分さっき尻餅ついた子だと思うが、背後の子はなかなか諦めなかった。
「待ってって言ってるのにっ!」
叫びながら、向こうもスピードアップしたという……。
なんか怒り出してるしな?
むしろ俺は、礼を言われてもバチは当たらないと思うんだけど。