魔獣達と複数パーティーの大乱闘2 突入せよ
「ええっ!?」
声に驚いた俺は、元から隅に出していたマップを、両手で左右に大きく広げ、視界一杯に見えるようにした。
彼女が言いたいことはすぐにわかった。
……目的地だった地下鉄への入り口近くで、グレーの光点と赤の光点が入り交じっている!
つまり、プレイヤー達と魔獣共だっ。
この入り交じり具合からして、大乱闘中じゃないのか、これ。
「下手すりゃどっちも敵に成り得るんだよな、この場合」
俺はマップを睨み付けて呟いた。
『地下鉄を避ければいいだけでは?』
なぜ俺達が地下鉄を目指すのか知らないチュートリアルが、声を上げた。
『魔獣を狩るなら、他にもポツポツいるでしょうに?』
「そりゃあんた」
俺はこの際、彼女にも教えておくことにした。
どうせいつかはバレる。
「俺達の予定的に、地下鉄を通って東京タワーの方へ行くつもりだからな」
『――っ! まだ諦めてなかったのですかっ』
「おおさ。言っておくけど、止めても行くぞ。せっかく無理して伝言残してくれたのに、無視できない」
『黒崎さんが、逆に罠にかけているのかもしれませんよ』
「ああ、偽の情報を沢渡さんに仕込んだってことか? 有り得るな、あいつ頭切れるし。それでも、確かめないことには、わからないだろっ」
チュートリアルとやり合っている間にも、俺達は軽く路地を駆けて、至近に迫った地下鉄に急いでいる。
その間、どんどん剣撃の音と魔獣の吠え声が近付いてきていた。
最後に角を一つ曲がり、最も地下鉄の入り口に近い歩道へ出ようとしたところで――飛び出しそうになった俺は、慌てて急停止した。
ちょうど、中華飯店が横にある。
「止まって!」
マイにも合図して、一旦、中華飯店の陰から向こうを見る。
「うわぁ、団体さんのお越しだよ……人間も魔獣も」
「応戦している方は、明らかにパーティーですね。つまり、全員がプレイヤー!?」
「多分。いきなり大勢と出くわしたな。何組か知らんが、総勢じゃ五十人くらいいるぞっ」
しかも、魔獣側も負けていない。
いや、負けていないどころか、こっちは三桁に近いだろう。俺が最初に出会ったツノがある黄色いサーベルタイガーや、黒い狼みたいなの、それにまだ見たことなかった、ゴブリンみたいなのまでいる!
人間側にすりゃ倍以上の戦力なんだが、それでもだいぶ善戦してた。
「全員、異世界の人みたいですね……金髪や……みたことのない緑の髪の人までいます」
「うん。ただ、現地人の俺達があそこに参戦するよりは――」
両者を眺めていて、俺はふと気付いた。
魔獣の群れは、地下へ向かう地下鉄の入り口付近にたむろっているが。
少なくとも、その入り口から魔獣が出てくる気配はない。
「この隙に、中へ飛び込むか? 危険はあるけ……ど」
言いかけた俺は、同じ道路の少し先のビルに、あるものを見つけて思わず破顔した。
「どうしましたっ」
緊迫した声で訊くマイに、そっと指差してやる。
「ほら、マイがいる」
「えっ」
慌てて見上げた彼女の視線の先に、地下鉄ではなく、地上駅付近のビルの壁面に備え付けの、ワイドビジョンがある。
スクリーンに常になにか動画が流れるヤツで……ご苦労様なことに、今もちゃんと流れている。下はショートパンツで、上半身はビスチェみたいな衣装を着込んだ天川舞が、華麗に歌う姿という……。
『アイスドールが、あなたのハートを華麗に打ち抜くっ』
とか、動画の一番下で煽り文章が流れたりしてなっ。
「残念ながら音声は切れてるけど、映像はまだ生きてる……いやぁ、かっこいいな」
特に、サビの部分らしき場面で、軽くジャンプして、バック転して見せたのには、びびった。
いくらヘッドセット式のマイクとはいえ、終始冷静な表情で、当たり前のように決めたぞっ。
この子、元から身軽だったらしい。
その後の決めポーズも、目元にさっと横向きにVサイン出したりして、かっこよすぎだろ。こら女の子に人気あるのもわかる。なんかこう、なよっとした部分より、格好いい要素の方が多いからな。
いやマジで……マジでアイドルなんだな、この子。今更だが。
「そ、そんなの見ないで、今は急ぎましょうっ」
少し掠れた声でマイが背中をつつく。
微かに照れた声音だった。
「わかってる。勝利の女神も見たし、縁起いいしなっ」
俺はマップでもう一度確認したが、地下も表示されるこのマップを見ても、半径500メートル以内で魔獣がいるのは、間違いなく眼前のここだけだ。
「やはり、戦闘の混乱に紛れて突入がいいと思うが、マイの意見は?」
「賛成です! 駆け抜けましょうっ」
「よしっ」
俺達は角から飛び出し、まっしぐらに地下への入り口を目指した。