魔獣達と複数パーティーの大乱闘1 地下鉄への入り口が!
それどころか、今も背中の方でマイがゴソゴソと(多分)今まで着ていた忍者服と下着をかき集める音がして、なんだか余計に妙な気持ちになったりして。
もちろん、油断せずにマップは開いて警戒はしているが、気合いが入らないこと、おびただしい。
脳裏に浮かぶのは、しゃがみ込んだ時のマイの、細身のくせに曲線豊かな肢体と、足元に落ちてた純白のブラとパンティーだけだったりする。
恋愛カースト最下層だった俺には、目に毒だ。
だいたい、レース付きとかアダルトですげーな。さすがに、安物は穿いてないんだなぁ――などと、茹だった頭で考えていると、マイが小さな声で「もう、いいですよ」という声がした。
大いに期待して振り向いたけど、あいにくもう忍者服に戻っていた。
……がっかりすぎる。
いや、他の野郎がアレ見ると思うと腹立つから、これでいいっちゃいいのか。
「一応、下には着てるんだよな?」
「……はい」
試しに尋ねると、恥ずかしそうに俯いた。
アイスドールのこんな表情は、滅多にお目にかかれないだろう。
「そ、そう、デザインはともかく、鎧としては魔力付与の高価なものだろうし、もったいないしな。見た目じゃ全然わからないし、まあ、めでたしめでたしか」
あの、競泳水着みたいな姿を直接観た俺は、もう忘れないしなっ。
「あうっ!?」
ふいにマイが妙に色っぽい声を上げて、俺はまたどきっとした。
「どうしたのさ!」
「その……ボディスーツが不意に収縮して、ぴったりのサイズになったみたいで」
「なんという便利な」
感心したが、よく考えると、俺のブレストアーマーも同じである。
やたらとサイズぴったりだが、最初から偶然そうであるはずないだろう。これも、こちらのサイズに合わせてくれたようだ。
これも、魔力付与防具の恩恵かもしれない。
『それにしても、不可解です』
チュートリアルが考え深そうに呟く。
『あのやり方で装備して、あんな風に下着が落ちたりすることはないんですが』
「混沌の悪戯じゃないのか?」
俺は肩をすくめた後、ふと気になってマイを見た。
「下着は、あのボディスーツ+3の下に着けてるとか?」
「いえ……あのスーツ着てる以上いらないと思ったので……BOXに収納しちゃいました」
「そうか」
そう言われると、マイの胸元が気になったりするが、なるべく考えないようした――まあ、かなり難しいにせよ。
「よし、それじゃ行軍再開といきますか」
今になって照れてきて、俺はさっさと歩き出すことにした。
ウイングドラゴンと宝箱で、もうだいぶ時間をロスしたし。
用心のため、歩き出してもすぐにはマップを解除せず、視界の隅に出しっぱなしにしていた。
それでわかったのだが、プレイヤーはともかく、生き残りはやはり、そこそこ残っている。まあ、以前の人口から比べれば全然少ないのは確かだが――固まっているらしき青い光点(人間)が、散見できるのだ。
その大半が、どこかの地下室、あるいはどこかの店の地下フロアか、さもなくば高層ビルの上層階にいるらしい。
タワーマンショの横を通った時なんか、遥か上の方で窓を開けてこちらを窺う人達を、何度か確認した。
「やはり、階段を塞いでバリケードを作っているのでしょうか」
同じくマップを見ていたマイが、独白した。
「……多分ね」
俺は同意したが、遠くに見えるビルを指差してやる。
「ただし、空にもさっきのみたいなのがいるから、ああいうこともあるわけだ」
路地二つほど向こうのビルだが、最上階近くがギタンギタンに破壊されているのだ。おそらく、さっきのドラゴンみたいなのが、飛び込んで暴れまくったということだろう。
「絶対安全な場所なんかないわけですね」
心配そうに彼女はため息をついた。
まあ、助けに行きたくても、現実的に無理だが。
救いを求める人は幾らでもいるだろうけど、俺達は俺達で、この馬鹿騒ぎを終わらせる目的があるのだから。
希望も皆無じゃない。
本当に願いを叶えてくれるというのなら、その時に――。
俺の夢想は、突然のマイの声に破られた。
「ハヤトさん、マップを見てくださいっ。地下鉄への入り口が!」