移動4 もっともっとレベルアップして、強くならないとなっ
渡り廊下から接続されている体育館に、俺達は駆け足で急ぐ。
中等部もそうだが、ここ高等部の体育館も、私立高校の見栄が入っているのか、やたらと豪華で広い。
各種競技が可能だし、仮に全校生徒だろうと軽々と収納可能だ。
だから、ひょっとして、高等部の連中は全員そこに立てこもっているのかと思ったんだが……それにしては、正面のドアが大きく開いていた。
あと、なぜか複数の悲鳴と。
「……い、嫌な予感がするな」
そう口走りつつも、義務感から、俺は入り口の方へ近付いた。
せめて、同級生の安否くらいは確認しないとな。仲が良かった奴だって、皆無じゃないんだし。
そう思って覗いたのだが――見た瞬間に後悔した。
なんの因果か、まさに俺が覗いたその時、生き残りの数名に四方から魔獣が襲い掛かるところだったのだ。
どうも俺は、一方的な虐殺の、最後の場面に駆けつけたらしい。
「いやああああああっ」
「よせ、やめろっ。げほっ」
「せ、せんせぇえええ、たすけてぇええええっ」
他にも悲惨な声がしていたが、もうどうにもならない。
四~五人のグループに、少なくとも十数頭の魔獣が襲い掛かっているのだ。
俺が息を呑んだ時には、既にもう彼らは死に瀕していた。
「ちくしょうっ」
思わず呻いた途端、何頭かの畜生共が、ぱっとこちらを見た。
そのまま刀持って突っ込んでいこうかと思いかけたが、かろうじて俺は我慢した。
俺だけならそうしたかもしれないが、今は中等部の女の子も連れているのだ。巻き添えにはできないっ。
「くそっ」
寸前で正気に戻り、俺はバンッと両開きの扉を閉める。
その直後に、ドカッと向こう側で魔獣がぶつかりやがった。
「さ、沢渡さん、つっかえ棒みたいなのないっ!?」
刀ならあるが、これは命綱も同然なので、捨てられない。
「少しだけお待ちをっ」
一人で逃げることもできたろうに、沢渡さんはなかなか健気だった。
涙目ではあったが、ささっと周囲を見渡し、花壇に放置されていたホウキまで走り、それを拾ってまた走って戻ってきた。
「これではっ」
「助かる!」
俺はそのホウキを入り口の取っ手に差し込み、開かないようにした。
その間にも、向こう側でガンガンぶつかる音がして、心臓に悪い。
「よし、しばらく保つっ。走るんだ、沢渡さん!」
「は、はいっ」
二人して、ダッシュで逃げた。
他にやるべきことはなく、中等部の敷地に入るまで、二人して死に物狂いで遁走した。
ようやく追いかけてこないと確信した時、俺達は校舎の陰で、しばらく荒い呼吸を整えたほどだ。
ったく、どこにいるかわかったもんじゃないな、あの畜生共は。
「さ、さっきの体育館があんな状態なら――」
「まだ……わからないさ」
彼女の言いたいことはわかったが、俺はできるだけ落ち着いて首を振った。
高等部の避難先がアレでも、中等部はもう少しマシかも……まあ、そう思いたいだけなんだが。
「とにかく、見に行こう……用心しつつ!」
「わかりましたっ」
俺の空元気に、沢渡さんは無理して笑顔を見せてくれた。
くそっ。もっともっとレベルアップして、強くならないとなっ。