表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/109

混沌からの通達2(終) 生き残っている勇者達にプレゼントを用意してやったぞ?


「チュートリアルのような女神も歯が立たない、邪神とやらかっ」


 いつのまにか、歯を食いしばっていた。

 不思議だが、あまり敵わない雲の上の邪神という意識はあまりなく、心のどこかで、「やりようによっては倒せるんじゃないか?」などと考えていた。


 我ながら、無謀すぎる。

 そして、またしても混沌の声が言う。




『我らのことは、ほとんどの者がとうに知っておろうが、知らずにいた者も、さすがにパーティーの担当女神から、既に聞いているであろう。だが、安堵せよ。我ら混沌は、ルール違反を冒した者には厳しいが、そうでない限り、ゲームに励むお主達の邪魔はせん。我らは、勇者には優しいのだぞ?』


 猫撫で声で言い切った後、一拍置く。


『その証拠にだ、今この時をもって、未だ生き残っている勇者達にプレゼントを用意してやったぞ? 他の者に先に取られぬよう、励むがよい! うふふ……見事、魔獣を倒し尽くした後、最高得点を得て願いを叶える者は、誰になるかなっ。先にはさらなるサプライズもある故、せいぜい生き残って楽しむがよい。……うふふふ……あはははははっ』


 楽しそうな哄笑で、どうやら最後だったらしい。

 しばらく緊張したまま次の声を待っていた俺達は、どうやら今ので終わりと知り、ほっと息を吐いた。


「綺麗な声なんですけど……なぜか聞いていると、ぞっとするような冷ややかさを感じました」 俺が言おうとしたことを、マイが先に呟いてくれた。

「ああ、全くだ……今のは、人間なんか虫けら以下だと思っているような声だったな」


 それと、チビ女神様の声がしないので、俺は気を遣って尋ねてやった。


「おーい、チュートリアル! 息してるか~」

『し、してますよ、失礼なっ』


 ようやく元気な返事があり、俺は密かにほっとした。





『ちょっと驚いただけです。それに、少々、嫌悪感もありますし。なにしろ私は、十年前に混沌が我が世界を訪れた時、死力を尽くして戦って、実際に死にかけた思い出がありますからね……未だに、その時のダメージから立ち直れていません』

「それでも絶望しないで状況を動かそうとしているんだから、あんたは大したものだと思うよ」 


 柄にも優しい声で言ってやったが、俺の本音でもある。

 女神の立場で敗北を認めるっていうのは、なかなかしんどいことだろう。神のプライドを思えば、名誉のために死を選ぶ方が楽な時もあるかもしれない。


 ……てなことをつらつらと言ってやると、彼女は『事実、名誉のために無謀な戦いを選び、散った女神が大勢ます』と暗い声で答えた。


 うわぁ、マジだったか。そりゃ、なかなか忘れがたいよな。

 かける言葉もないので、俺達はそのままマンションの外に出た。





 狭い路地には、ドラゴンが襲った破壊の跡こそ残っているが、例によって死体などは一切ない。まだ立ち上げたままだったマップを確認し、俺は「よし、じゃあ地下鉄に向けて」と声に出しかけたのだが、ふと妙なものを見つけて、押し黙ってしまった。


「ハヤトさん?」

「あ、ごめん。いやほら、百メートルほど先に小さなコンビニがあるじゃないか? その少し手前に、妙なものがデンッと置いてあるんだけど」

「……本当ですね」


 すぐにそちらを見て、マイが眉根を寄せた。なんだか、食い入るように眺めている。

 しばらくして、悩んでいるような表情で俺を見た。


「でもあれ、どこかで見覚えがあるような形してませんか?」

「してるしてるっ。やっぱりマイもそう思う?」


 ていうか、先入観を一切置いて見るなら、ありゃゲームでよく出てくる、宝箱そのものじゃないか? 鉄の補強が入った木製の箱だし。


「もしかして、混沌の言ってたプレゼントって――」

「あの宝箱!?」


 俺達は同時に声に出し、同時に足を速めた。

 チュートリアルが、『可能性は大きいですが、気をつけてっ』と言ったが、しかし誰かに先に開けられたら、目も当てられん。


 混沌は嫌いだが、ゲームに参加している以上、アイテムは欲しい。

 幸い、誰も出てくることなく、俺達は問題の宝箱の前に到着した。


 途端に、耳障りなアラームみたいな音がして、勝手に視界にスクリーンが立ち上がる。

 表示は以下の通り。



《邪神混沌が設置した、宝箱。……本当にお宝は入っているが、盗賊技能が無ければ、確率30%で爆発して、ダメージを受ける》



 読み終わった俺とマイが、揃って渋い顔になったことは、言うまでもない。


 ああ、どうせ素直にくれないと思ったよ! 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ