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混沌からの通達1 これは、この声はっ、混沌の一人ですっ


「さあ、矢でも鉄砲でも持ってこい!」

『別に直接危険が迫る話では――』


 言いかけたチュートリアルは、あっさり前言を翻した。


『いえ、やはり危険な話ですね、ハヤトにとっては』

「小心者の俺をびびらせるなって」


 顔をしかめて俺は促す。


「ずばっと言えよ、ずばっと」

『では話します。実は私、自分のパーティーとして既にハヤト達のことを混沌に報告しています。あ、この場合の報告は、単にゲーム参加しているプレイヤーだと知らせるためと、万一の時に報酬を要求する権利を持つためです』


「いいさ、そのくらい」


 俺は気安く応じた。


「本当に願いを叶えてもらう気があるなら、そりゃちゃんと参加状態になってないとまずいしな」

『そうなんですが――』


 チュートリアルは歯切れ悪く続けた。


『申請したこのパーティーの中では、ハヤトはパーティーのリーダー、つまりエースとして登録しているんです。女神が担当するパーティーを作ったら、たとえそれが一人でも、エースを登録するのが決まりなので』

「それ……そんなまずいことか? まだ俺とマイしかいないし、先に戦うことを了承した俺がリーダーとして申請されても、不思議はないと思うんだが」


『パーティーのエースは、マップに光点が出ません。エース登録した直後から、映らなくなるんです。その代わり、エースには危険も伴います。エースを倒すことは、パーティーの全滅と同義と見なされるからです。エースを倒すと、それだけ巨大な得点となるわけです』


「俺が倒れたら、パーティーごと全滅扱い?」

『はい。ただし、このルールはプレイヤーパーティー同士が戦闘となった場合に限ります。魔獣にエースが殺された場合は、この限りではありません』




「それって!」


 マイが初めてチュートリアルに非難の口調で言った。


「ハヤトさんがパーティーで一番危険だってことじゃないですか!」

『そ、そうなります……はい』

「そうなりますって、そんな無責任にっ」


「いいって、マイ」


 俺のために意外なほど腹を立てるマイを見て、俺は感動すると同時に「うわ、エースが俺でよかった」と心から思った。

 この子が狙われるより、自分が狙われる方が百倍もマシだしな。


「魔獣相手の場合は関係ないんだから、プレイヤーパーティーを警戒すればいいだけの話さ。それに、バランスから考えても、俺がエースで正解だろう」


 力強く言ったが、チューリアルにこのルールを聞かされていなければ、「え、エース? そりゃ頭のいいマイで決まりだな」と俺は簡単に譲ったはずだ。

 でも、聞いた以上は譲れないに決まっている。


 まだ納得していない様子だったが、俺の決意が固いのを見て取ったのか、マイも厳しい顔付きのまま黙り込んでしまった。





 場が暗くなる前に、俺はさっさと立ち上がって、何段か階段を下りた。


「チュートリアル、説明どうも。多少の休憩にもなったし、そろそろ出発しよう。ほら、マイ?」


 おおっ、いま俺、ごく自然にまだ座り込んだままのマイに手を差し出したぞっ。

 マジで死期が近いんじゃないかね。


「……はい」


 彼女もまた、素直に俺の手を取って立ち上がった。

 相変わらず、すべすべした手で感動ものだな。一生触っていたいくらいだ。

 なんて、俺が脳天気なことを考えたせいだろうか? ふいに、俺の緩んだ心に活を入れるような、馬鹿デカい声が響いた。





『さてさて、ゲーム開始から丸一日が過ぎたが、皆、楽しくプレイしているかえ?』




「わっ」

「――誰っ」


 俺とマイは二人してきょろきょろしたが、声の人物はどこにもいない。

 まだ若い、女性の声だったのだが。


「チュートリアルっ、この声はどこからっ」

『わ、わかりません』 


 頼みのチビ女神の声が、少し震えていた。


『探知できないほど遠くか、それとも近くても探知させてくれないのか――しかし、相手はわかります。これは、この声はっ、混沌の一人ですっ。しかもこの声、どうやらまだ生存中の、全てのプレイヤーに届いているようです!』

「また、派手なことをっ」


 俺は思わず腰の刀に手を伸ばしていた。

 ……そんなの、邪神相手には無駄だろうに。


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