街をうろつく新たな光点3(終) 指で三つ数えたら飛び出すぞっ
連中がまだこちらを見ていないことを確認してから、俺はそっと首を引っ込めた。
『ガス、おーい。まだかー』
『見てるって、今! よその世界に来てんだから、時間かかるんだよっ。慣れない建物ばかりでなっ。目印になるような目立つ教会もないし、建物密集しまくりだし』
ヤケクソのような声がして、それからすぐにガスとやらが続けた。
『だいたいわかった。さっき出てきた、地下鉄道? あの交通網からだいぶ離れたな。すぐそこに学校があるが?』
『お、いいね、教育の場は。そういうところにこそ、プレイヤーパーティーが隠れているものさ。若い奴多いからな。またぶっ殺して回ろうぜ』
くそっ、話し合いの余地もないのか、こいつらっ。
聞いていた俺は、むっとした。
そういう気なら……いざという時は、俺にも考えがあるぞ。
自分より、マイが殺されたり拉致られたりしたら、嫌だからな。声だけで判断するのもよくないかもだが、どうもこいつらは、あの不良三人組と同じタイプに思える。
『プレイヤー狩りもいいけど、メシ食ってからにしないか? どうもこっちの世界のメシはまずいが……腹減ってりゃなんでも美味くなるだろ』
『それより俺は、女でも見つけて――おっ』
『どうした、ガス?』
『いや……一瞬だけプレイヤーを示す光点が出たんだが、すぐ消えちまった』
盗み聞きしている俺達は気が気ではない。かなりくっついているってのに。
気のせいだから、とっとと行け!
『消えた? 本当か、それ!? 場所はどのあたりだ? それと数はっ』
『嘘じゃないって。目の前の集合住宅の中で、映ったのは一つだ』
――うわっ。
最悪な展開に、俺は今度こそ自分で手を伸ばしてマイをキツく抱き締める。
俺にくっついてりゃ映らないというのも、どうも半分は本当らしいからなっ。
頼む、あっち行け! 魔獣以外の相手に、さすがに俺も緊張していた。できれば人間同士で殺し合いなんかしたくないっ。
恥ずかしいとか照れるとか言ってる場合ではなかった。
俺はマイに小声で謝り、彼女をさっと膝の上に横抱きにしてやった。気持ちは、マイと完全なる一体化である!
……いや、えっちな意味ではなく。
嫌な間が開いた後、またガスの声がした。
『う~ん……駄目だな。やっぱりなんかの間違いだっかも。今は全然なにも見えない。完全にクリーンだ』
俺達が揃って吐息をつきかけたその時、最初に胴間声で話した男の声が、ヤケにきっぱりと言いやがった。
『いや、一応この集合住宅……マンションとかいったか? とにかくこの中を調べよう。魔力が関わってるスキルに、そんな単純な間違いがあるとは思えん』
『またこいつは顔に似合わない生真面目なことを』
『他のパーティーに遅れを取っても、しらねー』
『腹減ったっつーのに』
『やかましいっ、いいから来いっ』
ついに両開きの扉に手をかけるのが見え、俺とマイは至近で見つめ合った。
二人とも、考えることは同じである……こりゃもう、飛び出して戦うしかない。
階段の陰にいるから、いざ中へ入ってきてもすぐには見えないけど、どうせエレベーターホールはこの先だ。途中で否応なく見つかる。
俺は小声でマイの耳元に囁いた。
「よし、指で三つ数えたら飛び出すぞっ」
「はいっ」
俺はまず人差し指を立て、それから中指、そして最後に薬指を立てた。
(よし、今だっ――)
二人で飛び出そうとした途端、脳内でチュートリアルの声が響いた。
『待ってください! それどころじゃありませんっ』
(な、なんだっ)
ほとんど飛び出しかけていた俺は、慌てて踏みとどまった。
同時に、マップを見ていたガスという男の喚き声がした。
「おいっ、そっちより上だ、上を見ろ!」
「しまった! おい、戦闘準備――ぎゃあああああっ」
半ばエントランスに入りかけていた男が喚いた途端、ちょうど顔を出して覗いた俺は見た。いきなりマンション前が業火に包まれ、四人がまとめて火だるまになるサマを。
しかも、勢い余った炎の渦は、エントランスの扉を押し開け、こっちにまで飛び込んで来た。
「ふ、伏せてっ」
俺と同じく顔を出そうとしたマイに覆い被さり、俺はその場に身を投げた。




