街をうろつく新たな光点2 貴方達と同じ、プレイヤーなんですっ
なんだこれ、聞いてないぞっ。
薄青く光るマップの隅に、いきなり出てきた光点を見て、俺は顔をしかめた。
一度も見たことないパターンである。
今までは、魔獣以外の人間を示す青に、魔獣である赤しか光点はなかった。グレーは敵なのか、味方なのかっ。
考えている間にも、そいつはどんどん接近してきている……いや、これは「そいつ」じゃなくて、「そいつら」だっ。
灰色の光点は一つじゃない。合計四つある!
『四人も!? できれば、避けてくださいっ』
突如、悲鳴のようなチュートリアルの声が聞こえた。
「なんでだ? 魔獣なのか?」
『魔獣ではありませんっ。だけど、敵かどうかは、わかりかねます! 危険はあるから、遠ざかりましょうっ』
「いや、待てよ。こりゃ、いつものようにスルーできない」
俺はきっぱりと言い切った。
「次にまたグレーが来たら、その度に揉めるだろう? 今教えてくれ、チュートリアル。俺達は今、戦場にいるのも同然なんだ! 教えてくれないなら、俺はこの場で踏みとどまって、自分で相手を確かめるっ」
ばっさり宣告した途端、チュートリアルが黙り込んだ。
本気でまだ秘密にしておく気だったのか。
「だんまりもいいけど、なんか結構なスピードで接近してくるぞ? このままだと、遭遇する可能性大だ」
落ち着いて諭すと、チュートリアルが微かに息を吐く音がした。
『わかりました、お話しします。グレーはその……貴方達と同じ、プレイヤーなんですっ。相手次第では、余分な戦闘になる恐れがあります。なぜなら、ルールの上では、自分以外の敵陣営に所属する者は、無差別に攻撃してよいことになっていますから。場合によっては殺されるということです! 逃げてっ』
「なにっ」
俺とマイは同時に顔を見合わせた。
プレイヤーって……俺は勝手に黒崎もプレイヤーだって思っていたけど、そういうのがもっとゴロゴロいるわけか。
しかもこの光点、既にこの先の角まで来ている。
俺はとっさに決断して、横のマンションを指差した。
「そこへっ」
「はい!」
マイと一緒に、開かれた扉から飛び込む。
入ると同時にエントランス側のガラス扉を閉め、奥へ進んで階段の影に隠れた。
「しかし、向こうにもマップくらいあるだろ? もしあっちがマップ出してたら、それでバレるぞ!」
俺が囁くと、チュートリアルの声も自然と小声になった。
『いえ、貴方は特別なんです、ハヤト。向こうのマップには映らないはず。マイさん、なるべくハヤトとくっついてください。運がよければ、紛れて貴女も映らないかもしれません。彼とくっついて離れないで。ハヤトから離れると、すぐに表示されますからっ』
「わかりました」
マイは質問も意見もせず、言われた通りにびたっと俺にくっついた。
照れることこの上ないが、今はチュートリアルの言う通りにするべきだろう。
しかし、俺は向こうのマップに映らないって、どういうことだ。
訊きたいところだが、ついに向こうの声が近くまで聞こえてきた。そろそろマンションの前を通るはずだ。
『おい、今どの辺だっ』
割とデカい声で、簡単に聞こえたっ。
野郎のざらざらした声音であり、苛々している様子だ。
『あー、ちょっと待て。今、マップを立ち上げる』
い、今から出すのか……ヤバいな。
本当に、向こうのマップに映らないといいんだが。
俺も緊張したが、マイもかなり警戒したようで、益々俺にくっついてくる。もはや抱き合っているのも同然だった。
おまけに、運命の悪戯か、近付いてきた足音はマップを見るためなのか、このマンションの真ん前で立ち止まってしまった!
エントランスを塞ぐ扉が曇りガラスなんで、嫌でも見えるのである。