出撃直前3(終) 死亡リスト、あるいは復活可能リスト
俺がそれとなくマイを説得しようかと悩んでいるうちに、なにかにつけ素早い彼女は、もう買い物終えて装備整えてしまった。
「ハヤトさんに頂いた刀、有り難くそのまま装備しておきますね。本当は後ろ腰に装備したいところですけど、それだと長すぎて抜けませんから、こちらに」
などと言いながら、マイは刀を侍のごとく腰に差す。
おお、清楚な雰囲気漂う、神秘系の女忍者に見える!
「他はなに買ったの?」
「投げるためのナイフセットと、今のレベルで装備できる魔法です」
「今のレベルは?」
「まだ5です。ハヤトさんの足を引っ張らないようにがんばります」
ひたむきな目で見るマイである。
「いやいや、マイは明らかにがんばりすぎ。俺だってさっき確認したら、まだレベル7だったしな」
ヤバい、後輩に追いつかれる。
しかもこの子、典型的な努力家だ。
才能がどうとかチュートリアルに煽てられて、その気になるのは禁物だな。
「よし、チュートリアル。昨日は最後に感染者とも戦闘したし、多少はライフボール貯まっただろ。新たなスキルはなにがお勧めだ?」
俺は新たに気合いを入れ直して、チビ女神様にお伺いを立てた。
やはり、詳しい奴の意見を聞かないとな。
「そのことですけど……まだ早いと思いましたが、今のうちに教えておくだけ教えます。ハヤトのやる気に直結するかもしれませんし」
チュートリアルはそんなことを言いつつ、例のデカい将棋盤みたいなスキル満載のスクリーンを立ち上げた。
どこかを操作してスキルのマスに全て明かりを灯し、右上の区画のうちに、さらに一番上の隅を指差した。
「ここに『死者復活』とあるでしょう? これを取得できたら、亡くなった人を生き返らせることが可能となりますよ」
「本当かっ。誰でも!?」
「あ、いえ……ハヤトと僅かでも関わりのあった人だけです。そこら辺の通行人が亡くなってても、ちょっと復活は無理ですね」
いや、俺だって優先順位的に、そこら辺の通行人より仲間が断然先だ、そりゃ。
「マイは当然、復活アリだよな?」
「ハヤトが、いつかこのスキルを身につけるなら――ええ、もちろん!」
チュートリアルは太鼓判を押してくれた。
「わたしのためにそんな」
「そんなもあんなもないだろっ」
俺はきっぱりと、遠慮がちなマイに言い渡した。
「一緒に戦う仲間が、一番大事だって」
あ、少し赤くなったな、マイが。
そのまま俯いてしまう。
「ありがとう……ございます。わたしも取得できませんか、それ?」
目を逸らしつつ、マイは熱心にチュートリアルに頼む。
「ごめんなさい」
気の毒そうにマイが首を振った。
「貴女は才能ランクでは、クラスAに入る優秀な戦士候補ですけど、このスキルはクラスAですら取得不可能なんです」
「はははっ、なら俺も無理だろうに」
俺が呆れて笑うと、マイが微妙な目つきで俺を見て、チュートリアルはなぜかため息つきやがった。
「……なんでもいいから、覚えておいてください。ハヤトは先々、有り得ないような奇跡を可能にするスキルも、装備できるようになるということです。他の誰にも、同じことは不可能なのに。少しは自覚して、がんばりなさい」
がんばるとか努力は嫌いだと言いたかったが、マイの羨ましそうな目を見ると、ちょっと言えなかった。本気にするなというのに、後輩。
「あと、取得した時にスキル表示の部分を指で押すと、今のハヤトが復活可能リストが出ますよ。逆に言えば、現時点での死亡者リストですけど。今、説明のために、あえて私が提示してあげます」
途端に、目の前にずらずらと死者復活リストが出た。
「結構な人数が……ていうか、うちのクラスの七割以上は、もう亡くなってるんだけど!」
見慣れた顔がたくさんリストに出て、俺はてきめんにうろたえた。
こんなの見せるなよ。
「あくまでも、探知範囲内のリストなので、実際はもっと多いはず」
「……うわぁ」
おまけに、感染した不良三人組も載ってるしな、リストに。
「安心しなさい、救済措置もありますから。それがどのようなものか、今は言えませんが」
「秘密、多いんですね」
マヤが的確な突っ込みを入れた。
……どうせその救済措置も、恐ろしく難易度が高そうだ。でも、最初にトイレで会った女子生徒とかも載ってるし、なんとかできるならしてやりたいんだが。
柄にもないことで悩んだせいか、その後の買い物はかなりおざなりになってしまった。
必ず訊こうと思ってた質問もあったのに、すっかり忘れてしまったし。
死者復活なんて有り得ないとは思うが、それでも万一事実なら、俺は――。