出撃直前2 忍者姿の方がセクシーだろうから
俺の密かな決心など知らず、チュートリアルはもう当たり前のような顔で、クラス分けの話を始めてしまった。
「このクラス分けですが、実は本当に必要なのはマイさんだけですね」
「俺は!?」
「……どうしてでしょう?」
当然、俺達が尋ねると、チュートリアルは俺を見て、真面目に告げた。
「ハヤトの場合、クラス分けの意味がないからです。あなたの才能値に限界値がない以上、何に手を出しても、問題はありません。そういう人は希有な存在ではありますが、一応、エクストラクラスと呼ばれています」
「えぇええええ」
俺は、思いっきり疑いの声を上げたが、チュートリアルは置いて、マイまで納得したように頷いてやんの。そんな馬鹿な。
「しかし通常は、最初のうちは成長の系統を絞った方がいいということです。マイさん、貴女の望みは?」
「支援系というと、やはり弓などでしょうか?」
「魔法もありますよ、魔法も。というか、弓よりは魔法の方が支援に向いています。治癒のヒーリングも使えますし」
「魔法と剣と両方使いたい場合は?」
「……う~ん、レインジャー(猟兵)もしくは、忍者でしょうか。レインジャーは剣と弓、それに魔法が使えますが、魔法の習得効率はかなり低く、まあおまけ扱いです。忍者の場合、魔法と剣、それに手裏剣やナイフがメインですが、習得効率は全く等分ですね。どの技能も均等に上がります」
「ハヤトさんは、どちらがいいと思います?」
いきなり振られ、まだぶつぶつボヤいていた俺は、慌ててマイを見た。
「ええと、忍者かレインジャーのどちらか?」
「はい」
「う~ん」
考えた俺の脳裏に浮かんだのは、格闘ゲームに出てくる女忍者みたいな薄着かつエロ可愛いコスチュームをした、マイの姿だった。
うわ……めちゃくちゃ似合いそう。
「忍者、がいいかも」
完全に自分の好みで呟いてしまうと、マイが「忍者にします」と即答した。
「わっ。もう少し考えた方がいいんじゃ?」
俺が慌てて取り直したが、「いえ、わたしもそちらが好きですし。レインジャーってピンときませんから」などと言う。
いや、本当かね、それっ。
しかし俺も、まさか「忍者姿の方がセクシーだろうから、そっちを勧めた」なんて今更言えない。
「いいでしょう。では忍者用の戦闘服と、武器を選んでください」
「……今のセーラー服だとまずいですか?」
「それだと、防御機能がゼロなので、ダメージカット機能付きの戦闘服の方がいいですよ」
「わかりました」
俺が「やべー、うっかり妄想コスチュームで考えて返事しちまった」とうろたえている間に、あれよあれよと話が進み、チュートリアルが「この場で戦闘服にチェンジできますが、やります?」などと尋ねるところまで話が進んでいた。
「一瞬で着替えられる、ということですか?」
「ええ!」
「わ、わかりました……では、時間も惜しいですし、お願いします」
マイがためらいつつも低頭した途端、チュートリアルがまた宙に浮かんだボードをチョンチョンと操作して、「えいっ」とばかりに最後なにか押した。
その時、たまたまマイに注目していた自分を、俺は褒めてやりたい。
確かに、すぱっと一瞬で服装がチェンジしたが、その瞬間、ほんとうにごくごく一瞬の間、刹那の時間に、マイの白い裸体が見えたからだ。
もちろん、すぐ消えて戦闘服になってしまったけど、
でも、少なくとも一部はばっちり脳裏に焼き付いた気がする。何とは言わないが、大きさはもちろんのこと、むちゃくちゃ形いいな、この子。
「今……見ちゃいました?」
珍しく恥ずかしそうに訊かれたが、俺はきっぱりと首を振った。
「あんな一瞬で、見えるはずないって」
「そ、そうですか……それならいいんですが」
それに、こちらを見たマイの今の姿も、たいがい凄いぞ。
戦闘服の色は黒だが、浴衣を膝の上辺りでカットしたような、実に典型的なゲームの女忍者の姿なのだな。ただし、膝まで伸びた左右の襟の部分は白く、アクセントになっている。
帯は赤色で、背中の部分で蝶々みたいな形にまとめてあった。
あと、やっぱり黒パンストなのだなぁ……て。
眺めていた俺は、首を傾げた。両手も、手首の部分まで黒パンストみたいなのが覆ってるし。
「もしかして……全身タイツ?」
「忍者ですからね!」
忍者のことなんか何も知らなそうなチュートリアルが、えへんと胸を張った。
……さてはおまえのデザインか。
こいつもゲーム画像見て決めたんじゃないのか、おい。