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移動3 空にも魔獣

 俺達は用心しながら廊下を進み、足音を立てずに階段を下りていく。

 しかし、やはり不安なのか、背後からまた沢渡さんが話しかけてきた。


「あの……このモンスターの大軍、どうして死体が残らないんでしょう? それどころか、モンスターに倒されたみんなも、死体ごと消えちゃいましたし」

「うん、俺も見た。となると、やはりあれは俺の見た幻じゃなかったのな」


 顔をしかめて首を振る。

 まあ、死体が残っていないから、まだ落ち着いてられるのかもしれない。


 さもなきゃ今頃このあたりだって、同級生達の死体だらけかもしれないしな。俺が「これはゲームか?」と勘違いしていたのも、死体が消えたからだ。


 しかし、二度目の戦闘で怪我したから、やはりゲームだと思い込んで無茶すると、俺だって簡単に死ぬだろう……ぞっとしない話だ。


「理由はさっぱりわからないけど、俺が見たツノ付きとか黒い狼みたいなの……どちらも、日本じゃ見かけないタイプだよな。狼モドキも、本物の狼と違って、目が赤かったし」

「別の次元とか、あるいは異世界から来たと? そういうことでしょうか」

「それは……まだなんとも。て、おっ」


 一階に降りて、渡り廊下へ出ようとしたところで、俺は微かな音を聞いた。

 幸い、魔獣の呻き声とかではなく、聞き慣れたヘリのローター音くさい。


「新聞社のヘリかっ」


 手をかざして上空を見た俺は、さほど高くない場所を飛んでいるヘリを見つけ、声を弾ませた。操縦席近くに、見覚えのある新聞社のマークが見えたのだ。

 となると、すくなくともまだ新聞社は健在だし、報道機関も正常に動いているということになる。ガンバレ、ニッポン!




「グラウンドに出て、あのヘリさんに向かって手を振るというのは?」


 少し元気が出たらしい沢渡さんが、提案した。


「どうだろう? あの大きさだと、ヘリの定員は二人がいいところの気が――うおっ」


 俺は思わず驚愕の声を上げる。


「ど、どうしたんですかぁっ」


 早速、びくついている彼女に、黙って空の一画を示した。


「と、鳥さん? いえ、あんな大きさの鳥は――」

「上空だからわかりにくいけど……ヘリに向かってくあいつ、ヘリより大きいように見えるね」


 我ながらぞっとして、俺は呟いた。

 翼竜と称しても、そう間違ってない気がする。


 ヘリの方でも気付いたのか、焦ったように進行方向を変え、逃げに入った……しかし、いかんせん、追いかける巨鳥の方が遥かに速い!

 いや、ぐんぐん接近するあのスピードを見ると、下手すると戦闘機くらいの速度が出てるんじゃないのかっ。


 しかも、その勢いを緩めず、まっすぐヘリに突っ込んでいく。



「危ないっ」

「いやっ」


 俺達は同時に叫んで、目を逸らす。

 直後に大気を震わせる爆発音がして、青空に黒煙と炎が広がった。ローターが回転しながら吹っ飛び、半壊したヘリがきりきり舞いして落ちていく。待つほどもなく、遠くでさらなる爆発音がした。


 モロに墜落したらしい。

 誰が乗っていたにせよ、あれで助かったはずはないだろう。


「つ、墜落……しちゃった」


 呆然と呟く沢渡さんの肩にそっと触れ、俺は懸命に平静な声を出した。


「行こう……少なくともあいつは、どこかよそへ飛んでいったよ」


 内心では俺も泣きたい気分だったが、こうなると、一カ所でボケッと立っていない方がいい。空にまで魔獣モドキがいるなら、地上にはうんざりするほどいるだろう。


 同じことを考えたのか、沢渡さんは黙ってついてきてくれた。

 実際、哀れな末路を辿ったヘリに、この場で俺達ができることなどない。 


 それに……正直、あんな死に方は嫌だ。



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