休息1 幸せな湯
――食事というのも結局は、チビ女神様の売店で買わないといけないらしい。
実戦部隊の俺達と言えども、そこは変わらない。
食事どころか、食器の類いも同じく買わないとどうしょうもない。払うのは現金じゃなく、例のライフエッセンスやら、ライフボールとやらの、生命力を単位化したものだけど。
店にあったのは、缶詰とカップラーメンのインスタント食品の種類が圧倒的に多く、「さてはチュートリアルの奴、『ごはんはなるべく、外で調達してね』の方針だったな!」と思ったね。
ただし、一応はパンや牛肉、それに野菜もあるところが謎である。
野菜はレタスの野菜サラダ一品だけだし、肉は本当に牛肉しかないけど、両方ともすぐ傷むだろうと思いきや、入手した時点で「保存」の魔法を使えば、問題ないらしい。
なんというでたらめな。
でも言われてみりゃ、ここは天井の明かりだって電気じゃないしな。
いつかは焼き肉もアリとして、疲れていた俺は、今晩のところはカセットコンロ(これも売ってた!)と燃料のカセットボンベを買って、ラーメンとパンで夕食を済ませた。
水道設備は、普通に奥の区画にあったからいいが、これじゃ、いつもの俺の食事と大差ないな。まあ、それは喜ぶべきかもだが。
唯一嬉しかったのは、レトルトカレーとサラダを買ったマイが、表のソファーセットで俺と並んで座って食べてくれたことだ。
女の子と仲良く並んで食事したのは生まれて始めてで、俺は無駄に感激した。
「ここ……いいですか?」
なんて、礼儀正しく俺に訊いてくれたのも、望外の喜びというか。
この場合、むしろ俺の方が礼を言うべきだよな。
マイがカレーを温めるのに、自分もカセットコンロを買おうとしたので、「いや、そんなもったいない。これ使いなよ」とすかさず自分のを提示し、ひどく感謝されたし。
この子、表情に乏しい割に、礼を述べる時は本当に感謝してくれているのがわかるので、どんどん何かしてあげたくなる。
おまけに、横に座られると微かに良い香りがするという……汗臭い俺とは大違いだ。
臭わないか気になって、ちょっと間を空けてしまったくらいで。
「あんたは、食べないのか?」
とてとて歩いてきた女神様にも、訊いてやった。
なぜか俺達のそばにきて、食事風景を眺めているので。
「私は神様ですよ!」
ふいに胸を張りやがる……ほぼまな板なのに。
「降臨して肉体は持っていますが、ライフボールのみで幾らでも活動できます」
「へぇ?」
相槌は打ったけど、別に羨ましくないな、それ。
俺的には、ちゃんと食事は摂りたいぞ。二食目のラーメンを啜りつつそう思ったら、チュートリアルが屈んでじっと見てきた。
「……なに?」
「一口、食べさせてくれません? なんだか、興味が湧いてきました。もの凄く美味しそうに食べるんですもの」
「おま――俺に食器からなにから全部売りつけた挙げ句、さらに一口くれとおっしゃる?」
「じゃあ、いいですようっ」
おまけに、速攻拗ねたし!
「良かったら、どうぞ?」
あ、俺の代わりに微笑したマイがスプーンでカレー掬って差し出した。
「ありがとうございます。でも、この色で美味しいのでしょうか?」
びびりつつ口に入れたチュートリアルは、何度か一口カレーを噛みしめた後、味わって目を丸くした。
ありゃ多分……いや絶対、カレーに嵌まったな。
食事が終わって後始末も済ませると、最後は風呂である。
これまた、渋々着替え一式とタオル類を買った後、俺は早速奥の区画へ向かった。
入ると、狭い通路の先がT字路みたいになっていて、右側に男湯と女湯があり、左側に向かうと、洗面所やトイレと、それに部屋が幾つか並んでいる。
俺は迷わず男風呂に直行し、生意気にもかけられたのれんをくぐった。
どこで入手したんだ、「幸せな湯」なんて書いたのれん。
中も割と豪華である。脱衣所がちゃんとあるし、鏡台も幾つかあるぞ。なるほど、大浴場みたいと言った女の子達は正しい。
俺は慌ただしく服を脱ぎ、さらに奥の浴場へ向かった。
外に放置だったら、風呂なんか仮にあっても安心して入れないだろうから、やっぱりチュートリアルには感謝しないと。