現状確認4(終) こんな空きっ腹じゃ、何も考える気にならん
「え、ええっ」
全く他人事のような顔をしていたチビ女神様の、うろたえることといったら!
「そこで私に振りますかっ。マイに質問って言ったじゃないですかっ」
「最初のは軽くフェイントだ。まず神様を頼るのは当然だろー」
「えぇえええ!?」
「ギブアップかな」
「誰に言ってるんですっ」
墓穴を掘ったチュートリアルは、やむなく身を乗り出して該当の文章を読み返し、そしてまた読み返す。
そのうち、首を傾げて便せんを逆にして見たりした。
しまいには、それを天井の明かりに透かして見たりしてな……偽札の調査じゃないんだから。
そして最後に咳払いした。
「こほんっ。ええと、しばらく預かって時間をかけさえすれば、きっと――」
「はい、アウト。マイ、もういいから解説頼む」
俺は無情に言い渡した。
「なんですか、それっ。だいたい自分はどうなんです!?」
「俺は最初からマイに期待してたし」
「なら訊くなっですよ!」
ぷりぷり怒るチュートリアルを気の毒そうに見た後、マイが困ったように微笑する。
「わたしも、当たっているかどうか、別に自信ないんですけど――」
うんうん、数学とかで一発正答の優等生も、みんなそう言うんだよ。
俺は完全にアテにしきって、頼んだ。
「別に間違っててもいいさ。その時はまた考えるだけだし。張り切ってどうぞ」
「わかりました」
マイは居住まいを正し、耳に心地よい声で口火を切った。
「沢渡さんがあえて難しい暗号を書くなんて思えないので、おそらく私達が少し考えたらわかる謎かけだと思ったんです。だから、よく本で紹介されているようなやり方で考えたら、それで意味ありげな単語が出たんです」
前置きされても、やはり俺にはわからん。
チュートリアルもコクコク頷いているが、ありゃ絶対わかってないね。
俺達の顔を見て、マイは続きを教えてくれた。
「つまり、アルファベットにそれぞれ数字を当てて考えるんです。仮にAを1として、Bを2とします。もちろん、Cは3です。それを暗号と考えて、先程の数字に当てはめると」
マイはスカートのポケットからスマホを出してメモ帳を出し、そこに該当する数字とアルファベットを当てはめて表示させていった。
20=T 15=O 23=W 5=E 18=R
実際に数字とアルファベットを置き換えて見せ、最後に続けて読んだ。
「つまり、一連の数字は『TOWER』という単語になります……ただ、これが本当に数字暗号の意味なのかは、わたしは自信ありません」
いや、申し訳なさそうに言うけど……こりゃもう、決まりというか。
俺がそう言いかけたところ、眉根を寄せて聞いていたチュートリアルが顔を上げた。
「今、ちょうど私も」
「うそつけー」
俺は一言で斬り捨て、マイを見た。
「助かった。俺と女神様だけじゃ、いつ気付いたものか、知れたもんじゃなかった」
「わ、私は多分、それが正解だとわかりましたようっ」
「いえ、それが正解だとまだ決まったものでも……一番わかりやすいので、可能性の一つとして考えるのがいいかと」
「どのみち、それ以上難易度上がったら、もう絶対にわからなかった自信あるね! だから、これで正解と考えよう」
いい加減空腹だった俺は、きっぱり言い切ってマイの言葉も封じた。
疲れが出てきたし、ここら食事と休息だ。粗末な食事でもいいから、なんか腹に入れたいしな。朝に食べたきりだ。
「明日の朝までに、タワーの意味をそれぞれ考えて、さらに装備を調え直すことにしないか? 今日はもう、食事して風呂入って寝よう。休むことも重要だ」
「長時間寝るのはいいですが」
チュートリアルが、ふいに厳しい声で告げた。
「キャンプ滞在時間のルールに抵触するから、オーバーした分はこっちで、自動的にライフエッセンス抜いちゃいますよ?」
「ち、血も涙もないな、おい。さっきの仕返しか!」
まあいいけどさ。
滞在時間の制限は、確かに前に聞いたし。
それよりなんか食わせろっ。
こんな空きっ腹じゃ、何も考える気にならん。




