現状確認3 自分達で調べた方が早いな
「あああっ。そ、そこまでっ」
「俺をだいぶ見くびってるな? 黒崎の登場で、そりゃもう、いろいろバレるって。あいつ、実にわざとらしくヒントを洩らしたからな」
俺は呆れてまた座った。
今から思えば――そもそも、あいつが俺と再会した途端、「おまえは生き残ってると思ってたよ」的な挨拶をしやがったのも妙に思える。
あまり、逃げ延びた避難生徒っぽい挨拶じゃない。
それに、「奇跡には必ず裏がある」なんてこともこっそり忠告してくれた。
トドメに、生き残り生徒達と共に消えたというのは……まあ、純粋に助けたかった可能性も否定しないが、あいつの場合はそれより他の理由があったと見るべきだ。
その理由ってのが、おそらくライフエッセンスとやらの確保と、信徒を増やすことだろう。要は、あいつのバックにも神がいる!
以上、ざっと説明してやると、チュートリアルは観念したようにうなだれた。
「断定することはできませんけど、可能性は大きいです、はい。黒崎という人もまた、正体不明の神格存在の信徒かも」
「あいつはしかし……信徒ってタイプじゃないけどな。そりゃ俺もそうだけど」
女神の信徒になるよりは、独自独歩で生き延びるタイプと思ってた。
「黒崎という少年の詳細は不明としても、少なくとも避難所を作るような女神は、私だけだと思いますが。それもあって、黒崎さんの行動と、私自身の都合を結びつけなかったのです」
おずおずとチュートリアルが反応する。
「私の知る限りでは、他の名のある女神は、だいたいみんな一定数以上の強力な信徒がいて、元の世界では名も知れていますしね。そうまでして僅かなエネルギー源を気にする必要はないはず」
むしろ俺は、女神とやらが複数いるという事実を知って、かなり驚いたんだが。
まあ黙って聞いておいた。迂闊なチビ女神様が、またうっかりヒント出すかもだし。
「女神様の誰かが、純粋に人間を助けようとして、チュートリアルさんと同じことをしている……という可能性はないのですか?」
マイの質問に、チュートリアルはきっぱりと首を振った。
「この騒動が終われば、そういうことも有り得るかもしれません。しかし、今の段階ではやらないですよ、きっと。自分達の目的の方が重要でしょう」
おいおい、だんだん話がきな臭くなってきたぞ。
もうその話からして、誰がこの魔獣まみれの世界にしたかってのが、おぼろげながらわかってきただけじゃないか。
そう思った俺がしんねりと見たせいか、チュートリアルはふいにはっとしたような顔で激しく首を振った。
「詳細はまだ言えないですけど、私がこの騒ぎを引き起こしたんじゃないですよ!」
俺達を見比べ、特に俺に向かって言い募る。
「私はただ、この状況を利用して神力を取り戻しつつ、密かに人間側に肩入れして、自分なりに戦っているだけですからっ」
「少なくとも、貴女が相当に危うい立場だというのは、なんとなく想像がつきます」
お得意のしっとりした声でマイが言う。
自らが女神様というかハイヒューマンっぽい彼女が言うと、やたらと心に響くな。チュートリアルも、ちょっと洟を啜り上げたほどだ。
「ぐすっ……ありがとうございます。せめて、このささやかなパーティーでがんばりましょう」
「で、俺達の真の敵は?」
「それは……その……今言ってしまうと、ちょっといろいろと弊害が。だいたい、誰が敵かそのごにょごにょ」
「何がごにょごにょだよ。まだ白状できないと? 気落ちしているようだから、言えるまで待ってやってもいいけど、襲ってきた奴は問答無用で敵として見るぞ? 後から文句言うなよ」
「言いません!」
……いきなり元気になりやがる。
「それに、ハヤトのそのルールが、一番正解に近いと思います」
「いや……それはそれで、嫌な予感しかしないんだけどな」
俺とマイは素早く視線をかわした。
もうチュートリアルに期待せず、自分達で調べた方が早いな。
自分は事件に荷担してないってのも、本当っぽいし。俺は心中で頷き、話を変えた。
「よし、じゃあ明日の目標は食料の在処探索と決まったことだし、休む前に今度はマイに質問。マイは、このメッセージがわかると言ったよな?」
俺はポケットに突っ込んでおいた沢渡さんの置き手紙となった便せんを取り出し、小さなテーブルの上に置いた。問題となるのは、最後の方に書かれた、以下の文章だ。
ここだけ、文章全体の中で、明らかに浮いてるしな。
□休憩の時に出されたクロスワードの答え、自分で見つけました!
□20 15 23 5 18……この位置ですよねっ。
マイが口を開く前に、俺はまたびしっとチュートリアルを指差した。
「まず、あんたの意見は? なにかわかるか?」