現状確認2 我々には敵がいるのですから。魔獣以外の敵が!
それにその調子だと、信徒その1である俺は、よほどがんばらないといけないかもしれないな。それ以前に、この魔獣だらけの街もどうにかしないとだが。
そのためには、なぜか事件の核心を話したがらないこいつの口を、なんとか開かせないと。
外へ出たが最後、戦いばかりでそんなの追及する暇ないし。
俺は気を引き締めて質問を続けた。
「とはいえだ、現状は赤字でも先生達が滞在中のあの避難所は、神力を取り戻すための『ライフエッセンスの回収タイム』に入っているのは事実だろ? なら、避難施設が受け入れられる満杯まで避難民を集めるのはオーケー? 神力復活のためにも」
なんだか話が、賃貸アパートの家賃回収みたいになってるが、避難所がアパートでライフエッセンスが家賃とすれば、ホントにそんな感じだ。
「大丈夫……ですが」
「まだ、なにか問題があるのか」
「避難民で満杯になると、不満を持つ者も大勢出ましょうし、粗末な食事に抗議する者も出るでしょう。人間の欲望は限りないですから。そもそも、武器や防具などの備蓄は多いですけど、食料の備蓄は不安が残るんですよ」
チュートリアルは恥ずかしそうに教えてくれた。
それ以前に、食事は粗末なのかっ。俺、密かに晩飯に期待してたのに!
「先生とやらを入れて、あそこの今の総勢は六名でしたか? あの人数ならともかく、満員では十日も持ちますまい。私の神力が昔ほどあれば、幾らでもコピー創造できたのですが、先程お話ししたように、今は難しいですね」
「……俺の晩飯が」
「世知辛いですね」
俺は自分の晩飯を思って肩を落とし、マイはしみじみと呟いた。
信徒がいなくなった神様は、本当に寂しいなあ。
「あのっ」
ぷりぷりしてチュートリアルが俺を睨んだ。
「その可哀想な目つき、やめてくれませんっ。結構、傷つくんですけど!」
「ごめんごめん」
俺は慌てて愛想笑いでごまかした。
力が枯渇といっても、これだけの用意をしたのだ……そりゃ神様には違いない、うん。
「よし、なら明日の探索は、『大量の食料確保』を第一目標にしよう。食料さえ大量に入れば、もう少し避難民を受け入れられるし、ライフエッセンス大量確保も可能なわけだ。そういう理屈だろ?」
「肝心なことを考慮に入れてませんよ、ハヤト」
チュートリアルは意味深な目つきで俺を見た。
「予定は決して予定通りにはいきません。なぜなら、我々には敵がいるのですから。魔獣以外の敵が!」
「それだよっ」
俺は早速、びしっとチュートリアルを指差した。
「あんたこそ忘れてないか? 俺達はそもそもなんで魔獣がこの街(あるいは世界)に溢れ出したのか知らないし、今の段階じゃ魔獣以外の敵なんか知らない。一体全体、誰が敵なんだ?ちらっと黒崎かとも思ったが、あいつは微妙に違うな……思うに、おそらく俺と同じ立場と見たぞ。つまり、この疑似ゲームのプレイヤーだ! しかもあいつ、俺より状況に詳しいようだしな、ちくしょうがっ」
最後は罵倒になっちまった。
「――うっ」
そこまで驚かんでもというほど、チュートリアルは仰け反って驚きを表明した。
「だ、断言はできませんけど、可能性は大きいです。確かに彼は異常でした。女神である私がステータスを覗けない時点で、有り得ないことです。そういうステータス隠しのスキルもありますが、最初はそこまで考えませんでした。しかし、後からごっそり生徒と一緒に消えたということは」
口ごもったチュートリアルの代わりに、マイがその先を続けた。
「黒崎先輩も、ハヤトさんと同じ立場だと推測できるわけですね。でも黒崎先輩はチュートリアルさんの関知するところではないとするなら――」
鋭いマイがあえて俺を見たので、俺は頷いて引き取った。
「つまり、この件に関わっている女神だか神だかは、あんた以外にもいるってことだ!」
俺はわざわざ立ち上がり、びしっとチュートリアルを指差してやった。
名探偵に名指しで犯人扱いされたがごとく、てきめんにチビ女神様がうろたえまくった。




