専用キャンプの秘密装備2 下着の替えは……必要ですから
このキャンプと称する休憩所は、中央通路とその左右に並ぶ二軒ずつのホットドッグスタンドにも似た売店、さらには通路突き当たりの寝所と風呂(湯浴み)がある奥の区画、という構成だ。
決して複雑な造りではないし、広さも学校の体育館程度といったところだろう。
それでも、俺達だけなら十分広いが。
俺はまず、最初にチュートリアルとやりとりした売店を通り過ぎ、左列の二番目の店に立ち寄ってみた。
「あいつが座ってた左列一番目は、武器やらスキルやらを扱ってたから……ここは薬とか?」
アイスクリーム屋台みたいな店構えの前に立つと、ふっと正面に文字盤が浮かんだ。
目を瞬く俺の前で、ずらっとメニューが出る。
『ここは日常品全般を扱う雑貨店です。ご希望のものがあれば、項目から検索を。見つけた品を入用な場合、横の購買モードを押すと、ライフボールと引き替えに交換します』
「一種の自動販売機状態か!?」
それはまあ、あいつ一人で全部の売店には座れないだろう。
俺は感心して、画面に出ている項目を見ていく。
細かく分けた中に、「衣類(下着含む)・防具」というのがあったので、そこを押して展開させた。おおっ、かなりの数あるな。
「男女別に別れているのが、有り難くて細かい! 部分鎧も全身鎧もありと。おお、男ものの防具出たっ。ゲームでたまに見る、全身スーツみたいなのまである。衝撃二割カットってマジか! あと、衣類は下着もあるな」
「わたしも見ていいですかっ」
ふいに、結構な勢いでマイが寄ってきた。
下着と聞いて、にわかに興味が出たらしい……まあ、替えの下着いるよな、そりゃ。
「どうぞどうぞ」
俺は気を利かせて少し離れ、「俺、全然見てないよ?」という振りをしてやった。
俺だって、自分がトランクス選んでるところなんざ、異性に見られたくない。しかし、先にちらっと見た限りじゃ、衣類も思ったよりは豊富だったぞ。現代風から古典風ドレスまで、幅も広い。
まさかあいつ、混乱中の街でせっせとかき集めたんじゃないだろうな……まあ、文句ないけど。それと、背後で物音が一つもしなくなったのでそっと振り返ると、マイは立ち上がった画面を睨むようにして真剣に見ていた。
誘惑に耐えられなくなり、そろそろとカニ歩きして斜め後ろから覗いてみる。
うわ……色とりどりの下着のページが。男のと違って、面積狭いっ。カラーバリエーション多い。実に素晴らしい!
「し、下着の替えは……必要ですから」
口を半開きにしていると、いきなりポツンと呟いた。
振り向きもしてないのに、俺が見てることに気付いてるしな、この子!
「それと、このページの商品見本。どこかのネット販売店で見た気がします」
「あいつのことだから、丸ごとコピーしたかもしれないぞ」
俺はなにげなく答え、売店を離れたマイを促した。
「本当に購入するなら、一応あいつが戻ってからにしよう。売店はいつでも見られるし、今はもう少し他を探索しない?」
「はい」
名残惜しそうにマイが頷いた。
あと、俺達がまだ見ていないのは、突き当たりの区画ということになる。
風呂を気にしていたマイの場合、一番確認したいだろうと思い、俺はまっすぐ奥の区画を目指そうとした――が。
「……あれ?」
途中、何気なく左の方を見ると、偶然違和感を感じた。
「どうしました?」
「いや、ちょっとなにかが」
しばらく売店の裏手にある白い壁を見ていて、どこに違和感を感じたのかわかった。
壁と天井の境目あたりに、円形の赤丸がついているのだ。
ビー玉くらいの大きさだが、壁が白いだけにそっちを見ればわかる。しかし、気にしなきゃ気付きもしないかもしれない。
「あの赤丸みたいな印、見える?」
「ああ、ありますね」
しばらく目で探し、マイは頷いた。
「ただの染みかな?」
「チュートリアルさんの言い方では、おそらくここが完成して間がないでしょう。染み自体が少し考えにくいですし、完全な円形というのもおかしい気がします」
俺達は顔を見合わせ、どちらともなく頷いた。
そのまま二人で中央通路を逸れ、売店の横を通って行き止まりの壁に至る。
そばで見ると、白い石材で組まれた思ったより立派な壁面だったが……問題の赤丸の下まで行っても、特に変化はない。
壁の色も周囲と差がない。
しかし、円形の印の真下の壁を、俺が何気なく押すと、いきなり壁自体が消失した!
「うわっ」
お陰で俺は、つんのめるようにして向こう側に転がり込んでしまった。