専用キャンプの秘密装備1
……次に周囲が明るくなると、昼間に見学した、専用キャンプに現れていた。
「たまに強引だよな、あいつ。みんなと相談することもあったし、約束だから、住所とか聞いておかなきゃいけないのにっ。後でまた連絡取らないと!」
「相談することというのは、沢渡さんの置き手紙のことですか?」
「そう。最後の意味不明のメッセージみたいなのがあったらだろ」
「はい……なんとなく、意味はわかると思います。正解かどうかはさほどわかりませんが」
「えっ!?」
俺が驚いて見ると、天川さんは穏やかな表情で見返した。
「今、お話しします?」
俺は少し考え、首を振った。
「二度手間になるから、チュートリアルが戻ってから頼むよ」
「わかりました」
頷く彼女を見て俺がため息をつくと、小首を傾げて「どうされました?」と訊かれてしまう。
「いや……天川さんは凄いなと」
「まさか。今まで、中原さんに助けられてばかりじゃないですか。凄いというのなら、中原さんの方でしょう」
天川さんが口元を綻ばせる。
「特に、わたしのために戦ってくださって、嬉しかったです。ずっと感謝してます」
「い、いや……あいつらは俺も嫌いだったし」
俺は思わず彼女に見とれた。
この子はあんまり派手に笑うことがなく、時々笑ってもせいぜい微笑止まりだが、無表情がデフォルトの子だけに、たまに見せる笑みに、想像以上にインパクトがある。
しかも、今なんかなぜか俺をずっと見つめているし。
「な、なに?」
「いえ……でも、とうとう二人きりですね」
なんという意味深なお言葉!
「い、いや、どうせすぐにチュートリアルが来ると思うけど」
俺は焦って答えた。
二人きりになると、ふいに人気アイドルのオーラを感じまくるな、しかしっ。
中二の女の子というより、光臨した女神みたいな雰囲気だし。
そのくせ、俺がとっさに思い出したのは、前にコンビニで立ち読みした漫画雑誌で特集されていた、グラビア特集だったりする。
舞台は浜辺で、この子が黒ビキニ姿で長い髪をかき上げている瞬間を撮ったもので、、クールな表情でどこか遠いところを見ていた。
なにがとは言わんが、年齢の割には大きかった、うん。
二分くらいガン見してしまったほどで。
見つめ合っていると、もはや視線が逸らせなくなる気がして、俺はあえて高い天井を見上げてしまう。
さっきの避難場所と同じく、ここの天井は不思議な明かりで満たされていたのだが、今はかなり光量が落ちている。夜時間に入ったということだろう。
外の景色は一切見えないので、こういう工夫は有り難い。
「天川さん、提案があるんだけど」
「はい?」
「俺達、昼間はほとんどこのキャンプの中を見られなかったんで、ちょっと一回りしてみない? 風呂とやらも見たいし」
俺がおずおずと持ちかけると、彼女は素直に頷いた。
「いいですね! ただ、わたしも提案していいですか?」
「なんでせう」
いかん、舌噛んだ。昔から俺は美人に弱いっ。
「同じパーティーで今後も戦うのですから、ぜひ名前で呼んでください」
「な、名前? 俺が天川さんを!?」
「中原さんは先輩なのですし、天川さんじゃなくて、舞と呼んでください。疑似ゲーム内の表記では、カタカナでマイですね。どうかよろしくお願いします」
「そっちも名前で呼ぶなら、考えなくもない」
そう答えると、天川さ――いや、マイはこちらを向いてわざわざ両手を握った。
「二人でがんばりましょう、ハヤトさん」
「そ、そうだなっ」
よし、少なくとも顔は引きつらなかったぞ。
ていうか、この子の肌は半端なく手触りいいっ。声もしっとりした低音で耳に残るし、アイスドールの魅力、半端ないな。
妙な気にならないうちに、俺は手を離した。
「じゃ、じゃあちょろっと調べてみようか、マイ」
ああっ、なんか偉そうに聞こえてたまらんなっ。
常に女の子を侍らしてるリア充みたいで、俺には似合わんっ。
しかし、天川さん改めマイは、物静かな表情で「はい」と答えてくれた。向こうの方が遥かに冷静である。
この子の場合、内心はわからんが。