非戦闘者達の処遇4(終) なんて横暴なチビ女神様だっ
「ライフエッセンスやライフボールは、元は生物の生命力なのですから、当然です」
チュートリアルは不思議そうにみんなを見た。
「神々が人間やホムンクルスを創造する時だって、絶対に必要なものですよ? でも、繰り返しお約束しますが、普通に滞在する限り、ほぼ影響ありません。ご決断をどうぞ」
詳しく言われても、あまりわからんが、どうも生物の生命力がこのチビ女神のエネルギー源らしい。だからこそ、求めるのだろう。
そのライフエッセンスとかライフボールを。
なら、恩義のある俺に異存はない。
他人がどう考えるかは知らんが。
「みんな、どうする? 強制はされないけど、出て行くことを思えば、ここで避難している方がいいと思うぞ?」
俺と天川さんはそうはいかないけどな、というセリフはあえて言わずに置いた。
渋々「そうね、滞在させて頂きたいわ」と答えた先生を皮切りに、次々と女の子達が頷く。ただ一人だけ、例の高校生の子が小さく声に出した。
「あたしは、一度自宅に戻りたいんですが」
その途端、空気がどっと重くなった気がした。どうやらみんな、あえて考えないようにしていたらしい。たちまち、我も我もと「おうちに帰りたいっ」と言い募る女の子達が増え、場がいきなり湿っぽくなった。
天川さんが困ったようにみんなを見て、それから俺を見る。
そういや、この人も一人暮らしだったな……俺と同じで、みんなとは事情が違うわけだ。
「それぞれみんなが家に帰るというのは、お勧めしない。おそらく外は、学校内以上に魔獣がうろついているだろうからな。ただ、気持ちはわかるんで、代わりに俺が見てきてもいいけど?」
一斉に注目されたので、俺は慌てて付け加えた。
「その代わり、一日一軒ずつ! 俺だって無理して死にたくないしっ」
女の子達は黙り込んでしまったが、そのうち、まだ名前も知らないヘアバンドの子が、わざわざ俺の前に立って、頭を下げた。
「どうか、お願いします。電話も通じなくて、心配なんです」
「わ、わたしもお願いします」
「あたしもっ」
「お願いします!」
「ははは、たちまち大人気だっ」
俺は自嘲気味に呟き、両手を広げた。
「いいよ。なら、ジャンケンかなんかで、見に行く順番決めてくれ。あと住所を教えてもらえれば、街を偵察がてら、見てくる」
「わたしも同行します」
当然のように天川さんが言ってくれたが、そこで横槍が入った。
話の展開に目を丸くしていた、高梨先生である。
「ちょっと待ちなさい!」
鼻息も荒く、割って入る。
「お願いしますじゃないですよっ。あなた達、先輩を死地に送り出す気なのっ」
「いえ……それは」
真っ先に頼んだヘアバンドの子が、罰が悪そうにうなだれる。
他の子も、俯いて黙り込んでしまった。
「だいたい、中原君と天川さんもですっ。そういうことを、軽々しく引き受けちゃ駄目でしょうっ。自分でも言ったじゃない? 外は魔獣だらけなのよ!」
「お言葉ですが、この二人はいわばこの疑似ゲームの『プレイヤー』なのです。戦うのが役目だし、とうに戦うことを了承しています」
チュートリアルがぴしりと言う。
「その通り」
俺は大きく頷く。
「どのみち、誰かが動かないと外の様子もわかりませんし。前よりは強くなってますから、大丈夫っすよ」
「わたしは誰がなんと言おうと、中原さんに同行します。同じパーティーですから」
教師の威厳などものともせず、天川さんが断言する。
女子の誰かが「あ、アイドルのスキャンダル……」と呟いたり。
「駄目です!」
とうとう先生が立ち上がった。
「どうしてもと言うなら、私も同行しますっ。教師ですからね! 責任がありますっ」
「そこまでです、先生とやら。この件については、もう話はついています。それに、貴女は戦うことに向いていません」
いきなりチュートリアルが告げ、軽く手を振った。
「ハヤト、先に専用キャンプで待っててください。後の説明をしたら、私もすぐ行きます。そこで、今後の攻略対象を決めましょう!」
「おいこらっ」
俺が止めようとする間もなく、俺と天川さんはその場で転送された。
なんて横暴なチビ女神様だっ。