非戦闘者達の処遇3 寿命が減る場合がある
『わ、わかり……ました……問題ありませんよ、ええ』
ぶつ切りの声がして、みんな飛び上がりそうになった。それはいいが、ヤバいな。
あいつめ、めちゃくちゃ緊張してるみたいだ。
こいつも人付き合い苦手な方だったか……仮にも女神なのに。
「声が聞こえたわっ」
「誰なの、この人!」
『だから……広間の中央にいるじゃないですか。年若いとはいえ、観察力を養ってください』
拗ねたような声が応じる。
年下に見える女神がそういうこと言っても、多分、説得力がないぞ。
『久しぶりに大勢の人間の前に顔を出すので、少し緊張していただけです……今からそちらへ行きます。なにも問題ありませんよ、ええ』
ようやく、のそのそと売店から出てきて、歩き始めた
それはいいが、右手と右足を一緒に出してないか。
「あっ」
ふいにヘアバンドの子が声を上げた。
俺達が注目する中、チュートリアルが何もない平地で、蹴躓いて倒れたのである。
プールにダイブするみたいに派手な倒れ方だったが……大丈夫なのか。
「……ううっ」
膝打ったらしく、そこを押さえて痛そうにしてるし。女神の貫禄ゼロだと思われるぞ。
それでも、引きつった顔で「え? わざとコケましたけど、なにか?」的な表情を作り、ようやく俺達のところまで来た。
背が低いので、目線が俺とそう違わない。
ちなみに先生は完全に保護者の目つきになっていて、「まあ、話くらいは聞きますよ」なんて呟いてるぞ。
こほん、とチュートリアルが咳払いした。
「長らく、あまり多数の人間と接触しなかったですが……まあ、いずれこういう日が戻ると思っていました」
ようやく、本来の地声でしゃべる。
またしても「声が変わった!」とか、「こっちが本当なのねっ」とか、わいわい騒ぐ中坊達である。「最初からその声で話してくれたら、可愛いのにっ」とか、もう遠慮がない。
「よ、よく考えたら、貴女達が私のところへ来ればいいじゃないですかっ。どうして女神自身で足を運ぶ必要がっ」
恥ずかしくなったのか、チュートリアルが俺を涙目で見る。
なんか気の毒になってきて、俺は愛想よく頷いてやった。
「そうだな、女神様を呼びつけちゃいかんな。ほら、あんたもここへ座れ。小柄だから、座れるぞ」
無理に手を引っ張り、俺と先生の間に座らせた。
手が小さいなあ。
「早速、ここに留まるための条件というか、対価の話頼む。みんな、風呂入って休みたいだろうし」
「わかりました。大事なところですからね、そこは。えへんえへんっ」
またひとしきり咳払いして、おもむろに言う。
「好きなだけここに留まってくださっていいですが、滞在する間はライフエッセンスというものを頂きます。略してライフ!」
思わず静まり返った俺達を見やり、さっさと続けた。
「ライフエッセンスが集まれば、単位が大きくなってライフボールになりますが、つまりどちらも、生物の生命力を仮に単位化したものです。ここで普通に食事して過ごして休むだけなら、基本一日5ライフ減りますが、生命活動の維持には全然問題ありません。どうですか、皆さん? お安いと思いますが」
俺を始めとして、しばらく誰も何も言わなかった。
聞き慣れない単位なのは置いて、5ライフとかが、どのくらいの代物なのか、想像もつかない。おまけに半分聞き流していたのか、先生がふいに述べた。
「ええと――宿泊所の規模が大きいのは認めますけど、借りる部屋の大きさからして、一拍5700円くらいじゃないかしら?」
はい、この人はなにも理解してないな、多分! 常識人すぎて駄目だ。
むしろ生徒達の方が「5ライフって想像つかないわ」って呟いてて、まだしも話についてきてるぞっ。
「説明、どこかおかしかったですか?」
先生は無視してチュートリアルが俺に訊く。
「とにかく、5ライフがどの程度のものか想像つかないんだよ、みんな。噛んで含めるように説明しろ。消費カロリーで換算するとどのくらいだ?」
「生命力とカロリーは微妙に違いますが」
チュートリアルは少し考え込んだ。
「そうですね、無理に比較するなら、ランニング十分程度のエネルギー量でしょうか。その程度だと日常的には全く変化しませんし、寿命も減りません。女神の誇りにかけて約束します」
「むしろ、寿命が減る場合があることに、驚きました」
沈黙していた天川さんが、無表情で的確な突っ込みを入れた。……それは言える、うん。