非戦闘者達の処遇2 牢名主的な人ですか?
前と似たような浮遊感が一瞬あって、また視界ががらっと切り替わった。
俺と天川さんはキャンプで慣れていたはずだが、眼前の光景を見て、やはり「おおっ」と声を出さずにはいられなかった。
少なくとも、俺達が見たキャンプとは、少しばかり……いや、かなり違っていたからだ。
まず、俺達は全員が、円形の広場のような場所に立っている。
あちこちに木製ベンチが置かれ、人工芝みたいなのが敷かれた、割と本格的な広場だ。直径五十メートル以上はあるんじゃないあろうか。
その真ん中に、噴水の代わりに、駅の売店を真円にしてデカくしたようなものがあって、どうも本当にそこが売り場らしい。
なぜなら、チュートリアルが緊張顔で座っているので。
……で、多分、肝心の居住区は、広場の周囲に広がるレンタル倉庫みたいなのがそうだろう。いや、あんなコンテナが積んだようなショボい見た目ではないが、金属製のブロックハウスみたいなのが、上に三つ、横に十個くらい連結して並んでいる。
白くて四角いブロック一つで、およそ六畳くらい?
ちなみに、それぞれの棟へ行く通路を除けば、それこそびっしりと連結ブロックの山である。整然とそれが並ぶ様は、あたかも巨大倉庫のような。
こりゃ、収容人数かなり高いぞ? 軽く三桁に届く気がするな。
「……お風呂、ちゃんとありますね」
俺の横でほっとしたように天川さんが呟く。
おお、言われてみれば、見覚えのある白い扉が、広場の奥にある!
金属プレートで「湯浴み」と上にあるのも、同じだな。
その代わり、「寝所」の案内はないが。つまり、周囲の四角いブロックみたいな部屋が寝所兼住居か。なるほど、避難所にふさわしい造りかも。
「な、中原君……」
口を半開きにして周囲を窺っていた高梨先生が、俺に震え声で訊いた。
「放送室は? まさか、転移したなんて言わないでしょうね?」
「実際に転移してるじゃないですか?」
俺は落ち着いて諭した。
「ご自分の目で見たことは、信じないと」
その間にも、放送室に籠もっていた生徒達がわっとばかりに周囲に散り、それぞれ探索をはじめた。
……というか、実は全員が奥の風呂めがけて走って行った。
え、風呂入らないと死ぬのか、女子は。まあ、俺も好きっちゃ好きだけど。
『うわぁ、大浴場のレベルだわっ』
『ちょっと元気でた、かも!?』
『これ、多分温泉だよ! 凄くないっ。どこなんだろ、ここ』
わいわい言う声も聞こえてきたりして。
風呂を見て満足したのか、五人とも、すぐ戻ってきたけど。
俺はちらっと売店の方を見たが、チュートリアルはカチンコチンに固まって座っていた。こっちに顔向けているのはいるが、指でつついたら倒れそうなほど、固まっている。
なんだあいつ、緊張症か?
俺だって説明役なんか得意じゃないが、こうなれば仕方ない。
天川さんは、さりげなく俺から離れたしな!
こりゃ多分……いや絶対、説明役を押しつけられると思ったな? 鋭すぎてたまらんな、この子。おまけに、アイドルのくせに、プチコミュ障ぽいっし。俺もそうだってのに。
内心で愚痴る間に、取り残された俺の周りに皆が集まり、またヘアバンドの子が話しかけてきた。
高等部、一年の記章をつけている。
「先輩、真ん中の売店みたいな場所に、お人形さんみたいな女の子が座っていますけど……全然動かなくて怖いです。L字金具みたいです! 牢名主的な人ですか?」
「い、いや……牢名主違う」
爆笑しそうになったのを、俺は辛うじて堪えた。
「今からざっと説明するよ。あの金髪ドールの正体と、それから俺や天川さんの現状なんかを。今とんでもない場所にいるんだし、多分、みんなも信じやすいだろう」
疲れたんで、俺はそこらのベンチに座って話した。
俺が話し始めてから、天川さんが戻ってきて、横に座ったりしてな。あと、先生もその隣に座り、他の子は全員、ベンチの前に整列するようにして聞いていた。
「……というわけで、現状俺と天川さんは、魔獣共と戦う運命にあるってわけ。疑似ゲームとはいえ、普通に死ぬんで、間違っても勧めないけど」
女の子達は顔を見合わせてほっとした表情だった。
ただ、アダルトな先生だけは、そう簡単に納得しなかった。
「ちょっと――」
ワンレンっぽくセットした髪の毛先をしきりに弄り、先生が俺を横目で見る。
「そんな話、なんでみんな、すぱっと信じられるのかしら? 特に、女神様の部分っ。つまり中原君は、あの子がそうだって言いたいんでしょう?」
牢名主と間違えられたチュートリアルを指差す。
「そうですね、信じ難いことに。そういや、みんながここに滞在するためには、対価を払うのが条件だったな。それも訊かないと」
俺は手でメガホンを作り、すっかり石になっているチビ女神を呼んだ。
「おーい、いい加減にこっち来て説明しろっ。滞在の条件をあんたの口から説明してくれ。俺だって、そこのことろはまだ聞いてないんだしっ」