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ホームシック5(終) 謎が残る手紙

 

 もちろん、俺は俺で勝手に読む。

 ……途中、何度も声を上げたくなったが、辛うじて我慢した。





○手紙の内容○


 中原先輩、急にいなくなってごめんなさい。

 私達は一旦、自宅の様子を見に行くことにしました。


 ただ、お世話になった先輩達のために、その経緯を急いで書いておきます。もしも、この試みが成功した時のために。

 とはいえ、実際にはまだ出発する前で、さっき黒崎さんの話を聞いたばかりですけど。

 でも、いざという時に何も知らせる方法がないとお二人が心配するでしょうから、今から書いておきます。


 さて、テレビの報道のせいで、ますます家の様子や両親のことが気になり、私がひどく落ち込んでいたのはもう聞き及んでいたと思います。

 ただ、私は決して例外ではなく、図書室に閉じこもっている生徒達の大半は、男女問わず同じ気持ちだった気がします。


 ところが、中原先輩と天川先輩がどこかへ姿を消している間に、あの黒崎さんが、私達に声をかけたんです。

 三人の不良高校生に見つからないようにみんなを集め、ふいにこう持ちかけました。




「俺は、希望者を自宅へ送り届ける方法を持っている。もしもおまえ達のうち、望む者がいれば、相談に乗るぞ」


 ……こんなこと言われて、反応するなっていう方が無理です。

 少なくとも、私は無理でした。

 女子はもちろん、少ない男子生徒達も、だいたい全員が希望したんです。


 ただし男女問わず、みんなその方法を知りたがったんですけど、黒崎さんは「信じられるように証明してやろう」と言ったかと思うと、一年生の女の子を一人選び、二人で一度、廊下へ出ました。……一分ほどで戻ってきたんですけど、その時には同行した女の子がもの凄く驚いていて、「本当に外へ出られたわっ」って言うんです。


 共謀して嘘ついているんじゃないかって普通は思いますけど、実はその子って、私の友達だったんです! 私にまで、嘘をつく理由がありませんし、共謀してるわけないです。

 それがきっかけで私を始め、ほぼ全員が帰宅を希望しました。


(ごめんなさい。その能力についてや、今から書く「条件」については、ボカす以外の書き方をするなと言われました。つまり……ええ、この手紙を残すことは、黒崎さんの了承済みということです)





 私もそうですが、みんな家族の安否を知りたいので、決意するのに時間は掛かりませんでした。

 我も我もと希望者が出ると、黒崎先輩は頷き、こう言いました。


「本当に希望するなら、俺は必ずおまえ達の望みを叶える。ただ、そのためには一つだけ条件を呑んでもらわないといけない」


 ……その条件を聞いて、みんな驚きましたし、少し不気味にも思いました。

 でも追及すると、「命に関わらないし、試してみて嫌なら、いつでも抜けていい」って、黒崎さんはそう約束しました。


「おまえ達は大勢いるし、誰か一人が先に試してみて、本当になんでもないのを確認してからでもいいんだぞ」とも。


 これでもう、その場にいない不良さん達以外は全員がその気になって、帰宅を希望しました。みんな、家族がいますから。

 ただ、これだけは信じてください。


私は黒崎さんに「中原先輩と天川先輩の姿が見当たらないの、戻るまで待ってください。今、どこかへ行ってるみたいだけど、すぐに戻るでしょうから」ってお願いしたんです。他にも大勢が、天川先輩の名前を出して頼んでました。


 黒崎さんの返事はこうでした。




「中原にもあのアイドルにも、帰宅して待つ者はいない。おまえ達とは事情が違うし、帰宅する切迫した理由がない。それでも心配なら、教えてやるが……あいつらはあいつらで、ちゃんとなんとかするアテがあるんだぞ」


 さすがに、首を傾げる人が多かったですが、私はなんとなく腑に落ちました。

 中原先輩、途中で何度か態度がおかしいことがありましたし、多分その理由が黒崎先輩がほのめかす「アテ」なのかなぁって。



(ここから、後でまた書き加えました)


 黒崎さんは、「チャンスがあれば、すぐ出て行くからな」と予告していました。 

 皮肉なことですけど、今、お二人が放送室にいる人達の救出に向かうことで、そのチャンスが訪れたようです。

 予想通り、黒崎さんはすぐ出発を宣言しました。

 どうやらあの人は、お二人とは別行動を取りたいらしいんです。


 言い訳ですけど、先輩達は「自分達の避難を優先していい」って最後に言ってくれました。だから……お言葉に甘えます。本当にごめんなさい。

 先輩にアテとやらがあるなら、救出できた人もちゃんと逃がしてあげられるでしょうし。


 でもっ。自宅の様子だけ見て、もうどうにもならないとわかったら、私はまた黒崎さんに頼んで、ここへ戻ってくるつもりです。

 後輩のわがままを、どうか許してくださいね……。            

                                沢渡佳純



 追伸

 いつのまにか天川先輩が中原先輩を名字で呼んでいて、ちょっと嫉妬しちゃいました。

 ごめんなさい、これは余計でしたね。


 休憩の時に出されたクロスワードの答え、自分で見つけました!

 20 15 23 5 18……この位置ですよねっ。 


○ここまで○




 ……読み終わった俺が呆然と顔を上げると、ほぼ全員が俺と同じくあっけにとられた顔つきだった。


 天川さんだけは、いつもの深沈とした表情でなにか考え込んでいるが。

 しかし……そうか、黒崎が最後にほのめかした「脱出の相談していたんだ」というのは、このことだったか。


 ついでに、奴の役割もおぼろげながら見えてきた気がするが。

 あと沢渡さんが、何かこっそり教えようとしているってのはわかる。


 ――今の俺には、内容は全く謎だが。クロスワードって、どこのだよ!?


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