間奏(続かず) そんな奴らを助けたいと思わないな
放送室から飛び出した俺は、西側の階段を駆け上って、二階廊下へ出た。
……確かめるまでもなく、既に踊り場に至る前に聞き覚えのある濁声が聞こえた。
うんざりしながら廊下へ出ると、案の定、高三の不良トリオがいた。
ただし、今は斑点顔三匹に追いつかれて、戦闘の真っ最中だが……俺が最後にマップで見た時は魔獣×2だったが、今は一人増えたらしい。
「ちくしょう、こりゃ俺達の手に余るぞくそっ」
「いいから応戦しろっ。今や向こうも三匹なんだぞっ」
「あいつを拉致ってから逃げるはずが、なんでこんなことに!」
……最後に聞き捨てならないこと喚きやがったな。
俺は顔をしかめ、またマップを表示して、あの斑点顔の光点を指で触れる。すぐに詳細が出た。
【感染人間:レベル7(凶暴性の固まり)HP1050 MP500】
感染者とか呼んでる後輩が多かったけど、あれは当たりだったらしい。
さらに指で押し、特徴まで調べると、こうあった。
(特徴)普通の人間を見つけて無差別に殺す。赤い斑点で全身が覆われているのが特徴。
24時間、凶暴性を維持してうろつきまわり、人間を見つけると、全速力で走ってきて、武器を使ったり噛みついて肉を抉り、殺そうとする。高知能かつ、噛みつかれると同じく感染。
「うへぇ。やっぱり、噛まれたりするとまずいのか。先輩方~逃げ切れないとそいつらみたいになりますよ~」
「あ、てめえっ」
リーダー格の口髭がようやくこちらに気付き、憎々しげに怒鳴った。
「なにボケッと見てるっ。とっととこっちへ来て、加勢しやがれ!」
「そうだ、他人事かよっ」
「後輩だろうが!」
口髭の罵声に、二人も追従してきやがった。その間も、自分達が持ってる金属バットで必死に応戦しているが……あれは駄目だな。もう三人とも、どこかしら噛まれてる。向こうは素手だが、仮に奇跡が起きて感染人間とやらを全員倒しても、後から連中の仲間だ。
心の奥底で、ほっとしている自分がいた。
そこで俺は、肝心な質問だけした。
「なあ、おいっ。なんで、三階の仲間が全員消えてるんだっ」
「そ、そんなこと、今俺達に訊くか!? 知るかよ、そんなの! こっちだってついさっき気付いて焦ったばかりで――ぎゃあっ」
喚きながら答えてくれた黄色い頭の先輩は、ついに相手してた女子生徒に押し倒され、ガブガブ噛まれまくっていた。
「ジネジネジネッ!」
「また噛みやがった! た、助けてくれぇえええっ」
「わかったかよっ」
凶暴そうだと思っていた五分刈りが、涙目で喚いた。
敵は男子生徒で、蹴ったり金属バットで殴ったりしているが、あんまり効いてない。
「ゴロスゥウウッ」
「くそっ、俺達はなにも知らねえんだっ。いいから、早く助けろ!」
嘆願を無視して、俺は尋ねた。
「……制服のポケットに、なに入れてるんだ?」
いや、そいつのブレザーの胸ポケットから、白い封筒がはみ出ていて、むちゃくちゃ目立っているので。
こいつら、どう考えても手紙ってタイプじゃないしな。
「こ、これかっ」
五分刈りは封書を抜いて、掲げて見せた。
「おまえへの置き手紙らしい。欲しかったら加勢――ぎゃあっ」
戦ってる最中に手を空けたものだから、たちまち男子生徒に押し倒された。あ、これはまずいなっ。
ここで俺は、始めて加速のスキルを使った。
「――加速っ」
途端に、ギィンっと金属音みたいなのが一度だけした。
それと同時に、彼らの動きが明らかに鈍化して見えた。お陰で、俺は悠々と接近し、血まみれの手から封筒を奪い取ることに成功した。
危なかった! もう少しでヤケクソ起こした五分刈りが破くところだった。
……あと、既に三名とも倒れてしまったせいか、感染した連中が今度は俺の方へ襲ってきた。
「ジネェエエッ」
おぉ、声まで元の声から変質してるっ。
「悪いな!」
俺は、素早く魔剣を抜き、動きが鈍化した先頭のヤツの首を刎ねる。
そいつの身体を押しのけて前進、今度は横殴りの斬撃を放ち、並んで手を伸ばそうとしていた残り二匹の首も刎ね飛ばした。
そこで既に倒れていた口髭が手を伸ばして俺の足を掴もうとしたが、すぐに避けて後退した。
「待てこらっ。俺達を連れていけ! 怪我してんだぞっ」
まだ喚く元気があった口髭が喚いたが、代わりに俺は刀を振り上げた。なぜなら、最初に噛まれたらしい一人の顔に、既に赤い斑点が現れはじめていたからだ。
「あんたらは、もう感染してるよ。だいたい、あの子を拉致って乱暴するつもりだったんだろ? そんな奴らを助けたいと思わないな」
途端に動揺を見せた口髭に、俺は無言で刃を振り下ろした。
結局……こうなったな。