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ホームシック2 まだ死んでなかったのねっ!

「中原さん、どうせなら――」


 天川さんがなにか言いかけたが、敵に集中していた俺は、もはや答えなかった。

 疾走しつつ、腰に差した刀をさっと抜く。

 すると、いきなり薄赤い輝きが刀身をくまなく覆い、薄暗い廊下で派手な光芒を見せた。


「おおっ!?」


 俺がたまげているのを見たのか、チュートリアルが教えてくれた。


『魔剣(刀):魔力付与+1です。切れ味と耐久性は、通常の刀とは比べものになりません。本来、レベル7程度で使用する武器ではありませんが、取得していたハヤトのライフボール全部と引き替えで、ちょうど足りました』


 また勝手にそういうことをっ。

 だいたい、今回はロハかと期待していたのになっ!


「礼を言おうと思ったけど、やめたっ」


 俺は喚きながら、ブォンッという風切り音と共に襲ってきた棍棒を、身をさばいてかわす。

おおっ、今まで一番身体が軽い!


「遅いねっ」


 空振りして身体が泳いだ瞬間を狙い、敵の腕を下方から振り上げた魔剣で一刀両断とする。太い腕が一瞬の出血と共に吹っ飛び、廊下に落ちた途端に消えた。


「グアッ」


 ぎょろっとした一つ目がたちまち血走り、俺の動きを捉えようとする。

 しかし、俺が死角に入る方が遥かに速いっ。

 そこから横殴りの一撃をお見舞いする寸前、敵がまた悲鳴を上げて、さらにガクッと動きが落ちた。


 お陰で存分に敵の巨体を薙ぎ、モノキュラはきりきり舞いして倒れた。


「ふう……てっ」


 モノキュラがすうっと消えた後に、見覚えのあるハンティングナイフが落ちてるっ。

 慌てて天川さんの方を見ると、背筋を伸ばした美しい姿勢で歩み寄った彼女が、当たり前のような顔でしゃがみ、自分のナイフを拾い上げるところだった。


 全く関係ないが、相変わらず黒パンスト穿いた足がなまめかしい。


「……わたしが投げたんです、ナイフ」


 俺の視線に気付き、彼女が控えめに言う。

 いや、あっさり言うけど、そんな簡単に命中しないと思う、普通は。


「中原さんの足が速いので、刀の援護は間に合わず、援護するためにはこれしか――今度、弓を入手しないといけませんね」

「それよりどこに持ってたんだ、その大振りのハンティングナイフ」

「ステータス画面を開いたら、普通に収納できました。それ以前は簡易ベルトに差してましたけれど」


 実際、彼女は俺の前でステータス画面を開き、透過スクリーンみたいな画面のどこかを弄って、ナイフを魔法のように収納してしまった。


「それより中原さん、次に強敵そうな魔獣と遭遇したら、ぜひ『加速』を使ってください。せっかく入手したのだから」


 光を吸い込みそうな、真っ黒な瞳が俺を見つめる。


「さっき、そう言いかけたんです。だって、心配ですもの」

「そうだな、次で試してみるよ」


 思わず頭を掻いた途端、遅れて視界にメッセージが流れた。


「おおっ」

「レベル……アップ?」


 天川さんにも見えているらしい。


《戦闘終了。ハヤト、レベルアップ! レベル7→8。打撃力の高い棍棒を入手、ライフボール12個入手》


 あと、経験値の加点状況やステータスの変化などが、ずらずら流れた。

 なるほど、メッセージは個別か。別々に違うこと伝えるとか、さすが子供とはいえ女神様だな、チュートリアル。


「天川さんにも入ってる?」

「大丈夫です、ライフボールが入ったと文字が」


 二人で確認し合っていたその時、目指すべき放送室の扉がそろっと開く音がした。

 騒ぎに気付いたヤツがいるらしい。

 俺達がぱっと身構えると、怯えきった女性の顔が覗き、俺達――特に俺を見て目を見開いた。


「な、中原君っ。まだ死んでなかったのねっ!」


 ……俺達の救出目標の一人、高梨夢子たかなし ゆめこ先生だった。

 それはいいが、いきなりの挨拶がそれかっ。


「そう簡単に死にませんって」


 思いっきりほっとした表情なので、安堵してくれているのはわかるが、国語教師のくせに言葉の選択が不適切すぎるっ。



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