ホームシック1 じ、実はわたし達、どうしても
踊り場の封鎖場所に着くと、沢渡さんを始めとする数名に手伝ってもらって、通路分だけまた開けてもらった。
俺達は、急いでそこから向こう側へ出る。
最後に振り向きざま、お願いしておいた。
「よし、また塞いでいいよ! もし首尾良く先生を連れて戻れそうだったら、その前に放送室から短い連絡入れるから。ただし――」
俺は沢渡さん達のためにも、念を押しておいた。
「必ず放送できるとは限らないから、仮になんの音沙汰もなくなっても、心配しないでほしい。その時は、こっちはこっちでなんとかするから。救出とか考えなくていいからね。自分達の都合のみ、考えてくれ」
「そうです」
天川さんも口添えしてくれた。
「いざという時は、皆さんの避難を優先してくださいね」
「わかり……ました」
沢渡さんは、なんだかひどく寂しそうに俺達を見比べた後、走り出そうとした俺に声をかけた。
「中原先輩っ」
「なに?」
「じ、実はわたし達、どうしても――」
言いかけたものの、途中で苦しそうな表情を見せ、首を振る。
いつもの沢渡さんらしくなかった。
しかも、なぜか彼女の友達達まで、俺達に申し訳なさそうな顔してる気がする。救出部隊が二人だけだからか? それだけじゃない気がするが。
「いえ、なんでもありません――ご武運を!」
「ああっ」
気を取り直して俺はまた駆け出す。今考えてもしょうがない。
もはや、周囲には天川さんしかいないので、思い切って声に出した。
「チュートリアルっ、武器を頼む! 想定外だが、救出作戦中なんだっ」
『わかっています。すぐに武器を転送するので、合図と共に受け取ってください。それから、せっかくのスキルですから、早速使いましょう。ステータス画面からでも操作できますが、今はマップと声に出してください』
「わかった! マップ――て、うわっ」
一階の廊下に出たところで、思わず声が出た。
俺の視界の隅にいきなり四角形の地図が現れ、点滅する光点が幾つも見えたのだ。しかも、青と赤の二種類あるぞ。
この校舎が透過表示されていて、一階から三階まで、立体図を見るように把握できる。
青の光点は三階に固まり、赤い光点が一つだけ二階で行ったり来たりしているようだ。ちなみに校舎の外は、赤の光点が多すぎて数える気にもならない。
「青が普通の人間で、赤が魔獣だよな!?」
再び走り出しつつ、俺は問いかける。
『その通りです。それと今、武器を転送しますっ』
「おっと!」
ちょうど、数メートル先に落ちてきたので、ダッシュで受け止めた。
また刀か! まあでも、丸腰より遥かにマシだ。昇降口前を駆け足で通過……うわっ、ちらっと外の魔獣共が見えた。
すぐに通り過ぎたが、向こうはこっちを見ただろうか。
それに、二階の廊下をうろうろしていた赤い光点がふいに移動し、一階の廊下の突き当たり、つまり俺達が向かう先に出現した。
試しにマップに見えた光点を指でなぞると、敵の項目が現れた。
【モノキュラ:レベル9 片目の二足魔獣 HP1262 MP25】
「モノキュラねぇ。HP高めだから、力押しで来そうな敵だなっ。マップ消去!」
戦いの邪魔なので声に出すと、即座にマップが消えた。
(しかも、レベル7の今の俺より上じゃないかっ)
あまり良い気分じゃなかったが、あえて声には出さなかった。
どう言おうが、どうせ回避することはできない。あと、自分のステータスを精査する前に戻ったのが痛い。
「げっ」
地図が視界から消えた途端、こっちへ走ってくる魔獣……というかモンスターが見えた。
片目の魔獣、モノキュラである。茶色い毛皮と毛深い皮膚、それに布きれみたいなのを腰に巻いている。
手には、嘘みたいにデカい棍棒なんか持ってる。
嫌らしいことに、あいつを突破しないと放送室に行けない。
「英語名そのままで、本当に一つ目ですね!」
天川さんが背後から叫ぶ。
「そ、そうだなっ」
俺、英語の意味なんか知らなかったけどっ。
「俺が先制するよっ。天川さんはサポート頼む!」
返事を待たず、俺は一つ目野郎めがけてまっしぐらに駆けた。