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ハヤトの決断11(終) 一緒に行きます……最後まで

 戻った場所は、最初に立っていた同じ踊り場で、上から洩れてくる光からして、どうやらもう夕方に近いらしい。


 ただ、キャンプの前には聞こえなかった喧噪というか、生徒達の騒ぐ声が聞こえる。

 俺達は早速、階段を駆け上がり、三階の廊下に出た。


 む、なんだか生き残り生徒達の全員に近い数が、窓に群がってるぞ!




「どうかしましたかっ」


 天川さんが鋭い声を放つと、一斉に皆が振り向き、中でも沢渡さんが驚いたように叫んだ。


「先輩達、どこへ行ってたんです!? なんだか今回は大変なことになりそうですよっ」

「大変なこと?」

「どうした!?」


 二人で人の群れを掻き分けるようにして、廊下の窓に張り付く。

 うおっ。魔獣の群れが大勢グラウンドに集まっている! しかも、なぜかこの校舎の正面前に集合しつつあるっ。


 今までに見たことないようなタイプの魔獣まで中にいる。

 しかも、デカいっ。斑点顔でもないのに二本足だし、かなりの巨体だっ。


「あの大きい人……め、目が一つしかないよぅ」


 同じ化け物を見ていた沢渡さんが、口元を両手で覆って怯えた声を上げた。

 確かに……目の前で見るとエグそうだな。


「魔獣連中、生き残りのほぼ全員がここにいるって気付いたのか」

「ということは、一斉攻撃でしょうか」


 天川さんが厳しい表情を見せた途端、いきなりキィィィンと嫌なハウリングの音がして、唐突に校内放送が聞こえた。


『皆さんっ、生徒の皆さんっ。私は、高等部2ーBの国語担当教師、高梨ですっ』





「て、うちの担任じゃないか!」


 おっとりした美人さんである担任の顔を思い出して、俺は声を張り上げた。


「生きてたのかっ」


 当然、俺の声が届くはずもなく、さらに先生がしゃべった。


『私用で中等部に行ってましたが、化け物が押し寄せてからこっち、一部の生徒と共にまた高等部の方へ逃げ戻ってきました。私は今、女子生徒達数名と一階の放送室に隠れています。でもっ、ここへ来てはいけませんっ。それ以前に、生き残りの生徒がもしいたら、どうか一階へ来ないでください。なるべく上の階へ逃げて、隠れる場所を探してください。窓から見ると、今、グラウンドに化け物達が集まっています。――ああ、神様っ』


 悲壮な声と共に、ガリガリッとノイズがして、そのままぶつっと放送が途絶えた。


「うわぁ」


 俺は思いっきり顔をしかめた。


「タイミング悪く、先生が戻っていたのは困りものだが、放送室ならまだマシか……いや、時間の問題だな」


 放送室がある場所は、一階の昇降口から一番遠いが、それでもグラウンドに集まっている連中が飛び込んで来たら、どうせ遅かれ早かれ見つかるだろう。

 入り口もチャチな木製のスライドドアだし。


 まあ、まっすぐ魔獣がこの三階へ直行するなら別だが。

 俺はグラウンドを見て、まだ魔獣共が集結の途中なのを確認した。少なくとも、襲撃までに多少の時間はあるかもしれない。


 そう思って天川さんを見たところが――




「わたしは残りませんから」


 いきなり、先制された。


「中原さんと一緒に行きます」


 ううっ……状況がアレだし、残りの生徒達を頼もうとしたんだが、この目つきは駄目だな。

 ていうか、天川さんの発言聞いて、沢渡さんがぎょっとしたように彼女を見たぞ。今、気にしてる場合じゃないが。


「そうか、じゃあ――」


 言いかけた途端、黒崎の声がした。


「中原っ、中原隼人!」

「おっと?」


 少し離れた場所で、どういうわけか大勢の女子生徒達に囲まれている黒崎が、こっちを見ていた。そういうの嫌う奴だと思ってたのに。


「担任が気になるんだろ? ここは俺が見ててやるから、行ってこい!」


 ポケットに片手を突っ込んだいつもの余裕ぶっこいた姿で、手を振って寄越す。

 えぇえええ、マジかよ! おまえ、そんな良い奴だったかぁ? 

 絶対、なんらかの狙いがあってのことだろうが、そう思って助けずにいた結果、高梨先生が本当に魔獣に殺されたら……俺は多分、死ぬまで後悔するだろうな。


「疑うなって!」


 俺の様子を見て、黒崎がまた叫ぶ。


「ちょうど、彼女達と」


 周囲の生徒達を手で示し、「脱出の相談していたんだ。別に、何かあくどいことをしようって話じゃない」などと苦笑する。

 怪しいものだが、確かにこいつが今暴れる意味はないか。 


「わかったっ。助かる! じゃあ、何人か踊り場の遮蔽物をどかせるのを手伝ってくれ。そこから先はいいからっ」

「それなら、わたしと友達でっ」


 これには沢渡さんが名乗り出てくれた。

 ついていくと言わなかっただけ、マシか。


「なら頼む」


 最後に天川さんを見ると、彼女はいつもの物静かな表情で俺を見つめ返した。


「一緒に行きます……最後まで」

「あ……うん」


 すぐに身を翻して駆け出したから、俺が赤面したのは見られてないと思いたい。

   


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