ハヤトの決断9 中原さんがお許しくださるなら
ただし、その推測を口に出して、彼女を困らせることはやめておいた。
今の時点では、話せないことも多いようだし。
「わかったよ」
俺は穏やかに答え、横で天川さんがほっとしたように胸に手を当てた。
「今はそれで納得しておく。俺達だって、あんたがいないと困るからな。綺麗事ばかり言ってちゃ、長くは生きられそうにない。だから……話してくれるまで待とうじゃないか」
「あ、ありがとう、ハヤト!」
「いいって。礼を言わなきゃいけないのは、俺達の方だし。それで、女神様の本当の名前は?」
少し寂しくはあるが、いつまでもチュートリアルと呼ぶわけにはいくまい――と思ったのだが。
チビ女神様は、この質問にも首を振った。
「今はチュートリアルのままでいいですよ。なにかの拍子に、敵側に私の存在が洩れても困りますし」
「用心深いことで」
多少呆れたが、本人がそう主張するなら、俺も慣れた呼び方の方がいい。
「そっちがいいなら、それでいいさ。今のところ俺達は、お世話になる一方だし」
「そうですとも」
天川さんも、俺に味方してくれた。
「人それぞれ、事情がありますから」
「そうだよな」
大いに賛成し、俺は軽く手を叩いた。
「さてっ。時間が惜しいから、そろそろ次のお勧めを聞こうか、女神様!」
ことさら明るく、彼女を促してやった。
「半額セールとかないのかなっ」
「は、半額セールはありませんが、もっと先で教えるつもりだった機能を、今ここで説明しましょう。譲歩してくれたお礼です。その程度なら、別にルール違反でもありますまい」
「おおっ」
「それは嬉しいですね」
俺はあからさまに喜んだし、天川さんも微笑した。
ただし、俺同様に今の「ルール違反」という言葉に、なにか思うところがあったようだが。
一瞬、視線が俺とかち合ったもんな。
ホント、力が落ちてるせいか、たまにポロッと洩らしてしまうな、チビ女神様。
「ただ、その説明をする前に――天川さん。貴女は私の信徒となり、さらに正式にこの疑似ゲームに参加することを了承してくださるわけですね?」
「はい」
天川さんが即答する。
「よくわかりました。では、今後はマイと呼ぶことにします。マイ、貴女は一人で行動することを望みますか? それとも、ハヤトと一緒に行動することを望みますか? 先に忠告すると、ハヤトと行動すると彼のサポートを得られるでしょうけど、その代わり、貴女の手に余る敵と戦う恐れが出てくるかもしれません。脅すわけではありませんが、一応警告しておきます」
「警告には感謝します」
上品に低頭する天川さんである。
「しかし、わたしの心は変わりません」
す、少しは考えた方がよくないっすか。
「ぜひ、中原さんのパーティーに加えて頂き、今後も共に行動したいと思います……中原さんがお許しくださるなら」
一瞬、ちらっと俺を見た直後、そっと目を伏せる天川さんである。まつげが、メーテル張りにすげー長い。
慣れてきたのでわかるが、ありゃ無表情に見えて照れてるな。
「い、いや……そりゃもう……うん」
まあ、俺は照れてるどころか、めちゃくちゃ動揺しているわけだが。
ハイヒューマンのこの子に、そんなしっとりした声で言われると、告白されている気分になる。
「よろしい。では、お二人はハヤトをリーダーとする同一パーティーということで」
素早く俺に片目瞑りやがったぞ、チュートリアルっ。
なんとおませな。
「それなら、これから説明する『拠点作成』のスキルは、お二人の大いなる助けとなることでしょう。極めて特殊スキルに分類されますが、このスキルを持てば、ご自身で城郭に等しい規模の拠点も作成できます」