ハヤトの決断8 才能込みで戦士として選ぶなら、貴方がベストなんです
「宗教だけど、宗教じゃないもんっ」
チュートリアルはひどく混乱した言い方をした。
しかも、思わずポロッと出た、お子様言葉。自分でも気付いたのか、さっと口を押さえたが、今更おそいわっ。
「……実はあんた、まだ少女の年頃か? なのに、そんな頃から宗教で献金集めか?」
「大馬鹿ですかあっ」
うお、罵倒がレベルアップしやがった。後半は冗談だったのに。
「はっきり言いますけど、私の本当の年齢は子供じゃないですからねっ。神の位にあるから、神力の増減によって、外見も変化してしまうだけですっ」
随分とむきになって俺を睨む。
「だいたい、ハヤトに献金なんか求めませんようっ。お金ないの知ってますし!」
「うわっ」
ひでー言われ方されたぞっ。俺はさすがに憮然とした。
でもまあ、事実だけどな。所詮俺は、元両親から定期的に振り込みされる金で生活している身だ。
あと、どうもこのチビ女神様にも、複雑な事情がありそうだ。
そんなの長々と聞いている場合じゃないが、確かめたいことはある。
「大事なことを尋ねるが、俺を選んだことには理由があるって前に言ったよな? その時は、戦闘才能に秀でてるみたいな、有り得なさそうな理由聞いたけど、本命の理由はこっちか?」
「ハヤトのステータスが示す戦闘才能値が、計測不能なほどのレベルにあるのは事実です」
この件では、やたらときっぱりはっきり断言した。
「私は長い時間をかけて、くまなくこの世界の人間達を調べました。……その結果、戦闘才能値では、ハヤトの右に出る者は皆無です。私も驚きましたが、才能込みで戦士として選ぶなら、ハヤトがベストなんです」
「はははっ、ウケた!」
俺は乾いた笑い声を上げた。ホントは、全然面白くないっ。
「……信じてませんね? まあいいです。私も少し打ち明けますけど、今の私は女神でありながら、かつての神力のかなりの部分を失っています。神の力の源は、自分自身の能力もありますが、信徒である人間の力も大きいのです。信徒が皆無な神など、もはや神ではありません」
最後の部分を語る時、やたらと辛そうだった。
事実、チュートリアルはかなり切なそうなため息をついた。
「つまり、ハヤトに信徒になってほしいという理由も、そこにあります。貴方は将来、英雄になる人ですもの。そして、英雄ほど人を惹きつける存在はいないのです」
う~ん……自分自身に関する部分では、信じ難いが。
計測不能って、測り方に問題あるんじゃないのかー。
横では天川さんが、例の深い眼差しで俺を穴が開くほど凝視してるが……おーい、信じてくれるなよ、後輩。
俺は複雑な笑みと共に、両手を広げた。
「いいよ、チュートリアル。俺があんたに何かお返ししたいと思う気持ちに嘘はない。信徒でいい。喜んでなる」
「わたしもですっ」
俺を見つめるのをようやくやめ、天川さんが大きく頷いた。
「未だにわたしには信じられないことばかりですけど、ここを見た以上、信じないわけにはいきません。貴女にはとても感謝していますし」
「い、いえ……私も自分の都合で動いているので、そこまでの感謝は不要です」
「ていうか、あんたはこの魔獣が溢れた状況についても、説明できるわけだよな?」
俺はすかさず質問した。
声だけの時は得体が知れない部分があるし、そんな暇なかったしで深くは突っ込まなかったが、どう考えても無関係では有り得ないはず。
案の定、チュートリアルはひどく困った顔になった。
「それは……今ここで明かすと、おそらくハヤトは私が何を話しても、信じられなくなるかもしれないんです。正直に打ち明けますが、私は私でハヤトを必要としています。貴方との繋がりが途絶え、会話すら拒否されるのは、私にとっては辛いことなのです……もう少し、時間をくれませんか?」
「……信頼関係が満ちるまで待てと」
素直に頷くチュートリアルを見て、俺は遠回しに尋ねた。
「じゃあ、この部分のみ教えてくれ。仮にこの騒ぎを引き起こした黒幕がいたとして、そいつとあんたの目的は同じなのか?」
「ハヤトにしては……なかなか鋭い質問ですね」
益々困り顔になったチュートリアルは、息を吐いて話した。
「こう言えば、多少はハヤトに伝わるでしょうか? 私の目指すところと、貴方がほのめかす敵達とは、細かいところで同じ部分もあります。しかし、根本的な目的が大きく違います。私はそもそも、このような事態を収束させようとしているのです。従って、この騒動を引き起こした者達と違い、人間に害を与えるつもりは、一切ありません」
大きな瞳で見上げ、訴えるように俺を見つめている。
この時、俺は密かに察した。
……さっきの俺は、「仮にこの騒ぎを引き起こした黒幕がいたとして~」とそう述べたはずだ。しかし、このチビ女神様は「貴方がほのめかす敵達」と語った。
これは単なる間違いじゃない気がする。
当然っちゃ当然かもしれないが、大元の敵は、下手すると大勢いるわけだな。