表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/109

ハヤトの決断7 あいにく、まだこの人は疑似ゲームに参加していません

「気付くの、遅いですね」


 女の子がため息つきそうな声音で言った。

 どう見ても天川さんより年下に見えるのに、言動だけは大人だっ。でも、直接話すのを聞けば、声音はモロに少女。


 こいつぅ、声だけの時は大人声に調整してやがるなっ。




「先に言っておきますが、外見で判断しないでくださいね。こう見えても女神の端くれなんですから」


 ぴしりと言い切った後、なぜか自己嫌悪にどっぷり浸ったような顔を見せた。


「ま、まあ……今はちょっと困っていますが」




「何に困ってるんだ? 助けてもらってるし、手伝えるなら、喜んで手伝うけど?」


 ちらっと黒崎の忠告を思い出したが、俺は発言を引っ込めなかった。

 世話になっているのは事実だからな。

 恩もあるし、チュートリアル本人も嫌いじゃない。


「え……そうですか……それは、とても嬉しいことですけど。どうせ機会を見て、お願いするつもりでしたし」


 意外そうに俺を見上げ、目を瞬く。 

 あ、少し声が優しくなった。


「でも今は、ハヤト達の買い物を済ませましょう。ほら、スキル一覧を見せてあげます」


 そう告げた後、さっと腕を一振りする。

 途端に、長机の上に透明なスクリーンみたいなのが立ち上がり、たちまち全面に碁盤の目のような区分けができた。


 将棋盤のでっかいのみたいな感じだ。


「今、ハヤトが得られるスキルは、この斜め下の初級区画です」


 同時に、彼女が指差した場所が、さらに明るくなる。

 そこも、個別に名刺大くらいの大きさで区分けされていて、いろんな表示があった。


「なになに……レベル5シールド、自動防御レベル1、加速レベル1……まだまだあるが、この加速ってどの程度のスピード出るの?」

「レベル1スキルだと、通常と比べて二割程度のアップとなります。ただしそれだけの違いでも、ハヤトならほぼ全ての低レベル魔獣と対等以上に渡り合えます。戦闘において、スピードは重要項目ですから」


 相変わらず、背筋を伸ばした姿勢で、女の子が言う。

 全然愛想笑いなし。


「ええと、店員さんのお勧めは?」

「そうですね、ハヤトのスキルポイントが今は500貯まりましたから、なによりもまず、この『マップ(レベル1)』がお勧めです。ようやく装備できるレベルになったのだから、ぜひにも装備しましょう。マップがないと、そのうち死にますよ」


 可愛い顔して、エグい言い方してくれた。

 ていうか、マップって地図だよな……普通、そういうのは最初から装備されてるだろうに。

 でも一応、気になったことを尋ねてみる。


「地図って、書店で買えるようなのと変わりない?」

「そんなわけないでしょう!」


 ああ、せっかく不機嫌さが少し減じてたのに、また不機嫌になった。


「レベル1だと、ハヤトの現状レベルに応じて、敵の現在地がわかります。それと、半径500メートル以内の建物と道、それに食料の所在など」

「食料の所在がわかるんですか!」


 俺より先に天川さんが声を上げた。


「ええ、わかりますよ」


 しかも、チュートリアルの声が、俺に対するよりぐっと優しい!


「どの程度の備蓄があるか、その量もわかります。ただしこの場合、コンビニやスーパーなど、通常の店舗も『食料備蓄場所』として表示されるので、注意してください。とにかく食料があれば、建物がなんであれ、そこが黄色い印で表示されます」

「はぁああああ……なるほど、確かにマップは馬鹿にできないな」


 俺はすっかり納得して呟いた。

 普段なら、「コンビニに食料があったって、勝手に持ち出せないだろっ」と思うが、今は状況が状況だ。さすがの俺も、真面目に金払って買おうとか思わない。


 まあ、こんな状態で普通に営業してるなら別だが。


「それと、レベル1マップでも地下通路の所在などが、多少はわかります。だから、ぜひ入手して装備なさい。スキルポイント100で交換できます」

「喜んでそうする。……今回、天川さんの分も俺が出すよ」

「いえ、わたしは」


 天川さんが遠慮する前に、チュートリアルが口を挟んだ。


「あいにく、まだこの人は疑似ゲームに参加していません。スキル装備は不可能ですし、装備できるレベルでもありません」


 そこで俺達を見比べ、「ただ、状況が状況です。一点だけ了承してもらえるなら、今からでもこの疑似ゲームへの参加を認めましょう。そしてハヤト、ちょうどよい機会ですから、貴方にも同じことをお願いしたいですね」などと言い出す。


「お願いって?」


 軽い口調で俺が訊くと、いつもに似合わず、ひどく言いにくそうに教えてくれた。


「わ、私の……信徒になってほしいのです……ぜひとも。特に義務はなく……私を女神と認めて敬ってくれるだけでいいのです……けど?」

「うわぁ!」


 反射的に、叫んでいた。


「宗教か、宗教なのかっ」


 その手の人がアパートへ勧誘に来たら、速攻で追い返す俺は、思わず連呼した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ