ハヤトの決断6 あんた……チュートリアル本人か!?
呆れたことに、足元は黒光りする石材のブロックが敷かれた広い通路で、その左右に店……それこそ、祭りで見る夜店みたいなのが並んでいる。
通路の向かって左側に二軒、右側にも二軒。
ただし、店員の女の子がいるのは、左側の一軒のみだが。
俺達が立っている通路の行き止まりには、両開きの白い扉があって、上の壁に「寝所と湯浴みへ」と書かれた、小さな金属プレートがあった。
あと、天井までやたらと高いな、ここ。
夜店みたいな店はちゃちいのに、通路はやたらと広々としているし。
窓とかそういうものは一切なく、本当に通路と店と……白い扉の奥しか場所がない。
「――あの扉の向こうに、お風呂があるんですか!」
ふいに天川さんが、弾んだ声を上げたが。
俺はまだ呆れている最中である。
完全に外と隔絶した建物のように見えるんだが……なんだこれ。
振り向いても出口ないし。
『どうです? ハヤトを始めとする日本人向けを研究して、私が創造した場所です。快適でしょう?』
……自慢声、すげー。
天川さんが、やたらと真剣な声を張り上げた。
「お風呂は、本当に入れますか?」
い、いや……いの一番の質問がそれですか、後輩よ。
俺はさらに呆れたが、いよいよチュートリアルの声が自慢たらたらになった。
『もちろんです。いつも最適な温度の温泉ですし、場所も広いですよ。日本のSPAを参考にして、作りましたから。なんなら、下着の替えもお洋服もあります。日用品は全て揃います。私がデザインし、創造したものですよ……まあ、一部は』
「説明中悪いけど……外でなにかあったらアレなんで、今は急ぐ必要が」
俺が長話を止めようとすると、すかさず言われた。
『なにか向こうで問題が起きれば、私が教えましょう。だから警告されるまでは、落ち着いて買い物をなさい。ただし、時間制限は初回一時間です』
俺達はきょとんとして顔を見合わせた。
「結構、あるじゃないか!」
『今後、一時間を外で過ごすと、キャンプの時間が一時間取れます。つまり、八時間を外で過ごせば、八時間眠れる計算ですよ。余裕を持たせているのは、眠る時間の確保のためです。いつも外に眠る場所があるとは、限りませんから。ただしその都度、対価はもらいますけどね』
有料かよっとがっかりしたのは置いて。
「あの寝所って書いてあるプレート、飾りとかギャグじゃないのかっ」
『馬鹿ですか、貴方はっ』
前に聞いたセリフを、また言われた。
しかも、憤然と。
『私は極めて真面目ですし、ハヤトのような人のために、この場所をあらかじめ創造したんです! それともなんですか? 折りたたみベッドが隅に積まれた、キノコが生えそうな湿った畳部屋が好みですかっ。そんな環境で本当に疲れがとれますかっ』
「わ、わかった、ごめん。あまりにも意外な場所へ飛ばされたから。ちなみに、ここって場所的にはどこ?」
『日本ではないですね。私の故郷である世界に繋がってます。ただし、そこでも閉鎖空間を使って、周囲を隔絶しています。よって、ある意味ではどこでもない場所と言えるでしょう。仮にさっき教えたキャンプ入りのコマンドワードを真似しても、私が認めた人以外は入れませんので、ご安心を』
ぬう……短い返事だったのに、突っ込みどころがむちゃくちゃあったぞ。
質問しまくりたいが、すげー機嫌悪くなったからな。
「わかったよ、チュートリアル。……それで、買い物はなにがお勧め?」
彼女の機嫌回復のためにも、俺はあえて尋ねてみた。
『今は何よりもまず、生存のために初級スキルを選びなさい。通路左手の、最初の店です』
「……了解!」
「お世話になります」
俺達は並んで歩き、最初の店の前に立った。
おおっ、長テーブルの向こうに、えらく豪勢な金髪碧眼の少女が座ってる! でも肝心のテーブルには、特になにも載ってないぞ。
女の子本人は、フリルとレース付きの豪勢なドレス着てるけどな。革命前のフランスで流行ったようなドレスに見える。
ついでに美形なのはいいが、背筋を伸ばしたまま、なぜかむっつりと俺を睨みやがる。
「ここはスキルの店です。画面表示しますか?」
――あと追加で、セリフ棒読みときた。
「私は子供の使いじゃないですし、暇でもないですよ。ボサッとしてないで早く答えなさい、ハヤト」
「あっ」
「……まあ」
俺と天川さんの声が同時だった。
双方、その言い方で気付いたからだ。
「おま――いや、あんた……チュートリアル本人か!?」