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ハヤトの決断4 今から話すことは秘密にしていただけますか?

「そりゃまた、どうして? 基本、不良だから?」


 チュートリアルも気になるが、俺はまず、天川さんに尋ねた。


「それもありますけど」


 あるのか! 

 イケメン不良って、女子にモテると思ってたのに。


「その前に……あの方、先輩のご友人なんですか?」


 上目遣いに天川さんが訊く。

 もちろん俺は首を振った。


「いや、そこまでの仲じゃない。気が合う方ではあるけど、単なる元クラスメイト。だから、気を悪くしたりはしないよ」


 多分、俺の友達の悪口は言いたくないと思ってるのだろうから、そこはすっぱり言ってやった。


「そうですか。それならお話ししますが、あの方のわたしを見る時の目がひどく冷ややかな気がして、気になるんです。もちろん、そうは言っても、三年のあの人達よりは遥かに気になりませんけど」


 俺の様子を見て、そっと彼女が言い添えた。

 冷淡そうに見えて、実は気遣い多いなこの子。もっと気になったのは、今の発言した直後に、なぜか彼女が、自分の身体を抱き締めるようにして少し震えたことだ。


 嫌悪感というより、どこか怯えた表情を一瞬だけ見せた。

 あれだけ気が強そうなやりとりしてたくせに。


 どうも、なにか深い理由がありそうだが、そこまで突っ込んで訊くのは失礼だろう。




「――じゃあ、チュートリアルが警戒する理由は?」


 今度は謎の声である「彼女」に尋ねる。

 返事はなかなか意味深だった。


『あの少年のステータスが見えないからです。普通私は、どんな人間のステータスであろうと読めるのに』


 俺はもちろん、天川さんまで困り顔になったな。


「あんたに頼り切りだった俺は、今まではあえてあんたの正体なんか訊かなかった。たとえどんな存在であろうと、今は頼る他ないとわかっていたし、落ち着いたらそっちから教えてくれると思ってたからな」


 いよいよ覚悟して、俺は切り出した。

 幸い、今こそ周囲に人影はない。


「だが、そろそろ否応なく知っておくべきだろう。とてもじゃないがこの騒動が早期に収束するとは思えないし。チュートリアル……直球で尋ねるが、あんたの正体はなんだ? 俺の幻想が生んだ実在しないゲームマスターかとも思ったけど、絶対違うよな」


『違いますとも! むしろ、そんな誤解をしていましたかっ』


 呆れたような声が答えた。


『お話ししますが、どうせなら安全なキャンプ状態に入ってからにしませんか? その廊下の隅だと、また邪魔が入らないとも限りません』


「う~ん……まあ、一理あるかな」


 俺は納得して頷く。

 これまで我慢したんだから、多少待つのは構わない。必ず教えてくれるなら。


「ただし、後回しにできないこともあるんだな……チュートリアルにはわかると思うけど」

『そう、天川さんというその少女に警告しておくのは、大事なことでしょう』

「わ、わたしですかっ」


 驚いたように、本人が胸に手を当てた。


「そう、天川さんのこと」


 ……期待していたニュースの内容が全然当て外れだった以上、いよいよ彼女に警告しておくべきだろう。俺がなんとかするにしても、ふらっと一人でどこかへ行かれたら困る。


 隙を突かれてってことも有り得るだろうからな。

 あいつらに拉致られて、どっかの空き教室で乱暴されたらと思うと、ぞっとする。


「ここじゃなんだから、ちょっと来てくれる? その三人について、重要な話があるんだ」


 俺は彼女に声をかけ、階段を下りていく。

 少し間を置き、天川さんもついてきてくれた。





 まあ、踊り場のところでいいか。ここを通る人ってあんまりいないしな。

 あまり広いとは言えない踊り場に二人で立つと、彼女は少し不安そうに俺を見た。


「あー、先に言っておくけど、今から話す件は俺がなんとかするつもりでいるんで、そこは安心して任せておいてくれ」


 気休めに思われないように祈り、俺は先にそう断っておく。

 そして――話した。黒崎から聞いた話と、俺がこっそり聞いた話を、早口で全部。


「ま、まあでも、くどいけど俺がなんとか――て、天川さんっ」


 いきなりふらついて壁に背をぶつけ、天川さんが俯く。今や、誰が見てもわかるほど、震えていた。

 しかも、呆然と見ている俺の前で、しゃがみ込んでしまう。


「お、おいっ。確かに状況は切迫してるけど、大丈夫だからっ」


 驚いた俺は懸命になだめた。

 正直、この程度の話は「そうですか、あの人達が(冷笑)」くらいの余裕で応じてくれると思ったんだが!


「ごめんなさい、もう大丈夫ですから」


 俺が手を貸そうとするのを断り、天川さんがようやく立ち上がった。

 本当に、表情を見る限りでは、元に戻っているようではあるが……。


「……あの人達が怖いんじゃないです。ちょっと今、嫌なことを思い出してしまって」


 俺の心配そうな顔を見て、天川さんはそっと呟く。

 やがて、なにやら決心したような目つきで、俺を真っ直ぐに見た。


「誰にも話したことないので、今から話すことは秘密にしていただけますか?」



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