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ハヤトの決断2 俺がなんとかするさっ

「だいたい、中二の女の子相手に、ほぼおっさん化した高三連中が手を出すかねっ」


 八つ当たりのごとく俺は呻く。

 声は潜めたままだが、本当なら喚きたいところだ。


「連中のストライクゾーンが、その年代である可能性は置いて」


 眉毛ひとつ動かさず、黒崎が意見する。


「完全にスリム系ではあるが、中二とはいえ身長は160前後あるし、胸もそこそこあって尻の肉付きもそこそこ。見かけはあまり年齢相応じゃないわけだ」


 いろいろ突っ込みたくなる分析をほざいた。


「連中にすりゃ、十分に性欲のはけ口になると。美形とアイドルというステータスのお陰で、とっ捕まったら最後、多分とことんやられるぞ。……意味はわかると思うが」

「やかましいっ」 


 完全に頭に血が上った俺を眺め、黒崎はぽつんと訊いた。


「それで、どうするつもりだ?」

「俺? そりゃ止めるさっ。まずは天川さん本人に警告して、その後に連中を――」


 言いかけ、俺は顔をしかめる。

 大きな問題に気付いたからだ。


 ……本人に警告して、後はどうする? 連中をぶちのめすのか?

 

 まあ、それは今の俺なら可能かもしれない。しかし、あいつらがそれで諦めるだろうか? むしろ復讐心を募らせて、回復したら俺も狙うだけじゃないのか。


 もちろん、性的な意味じゃなく!




「察したようだな」


 黙り込んだ俺に、黒崎が重々しく言う。


「わかったと思うが、あいつらは痛めつけるだけじゃ駄目だ。最低でもこの学校から追い出すしかない。しかし、連中が喜んで出て行くわけないから、結局、選択肢は二つしか残らない」


 俺はじっと黒崎を見返した。


「俺達が出て行くか、あるいは連中を――倒すしかないってことか」


 殺す、という言い方はさすがに控えたが、暗にそう述べたつもりである。


「そういうことだ」


 黒崎は冷静に頷いた。


「半端なワルにありがちだが、三馬鹿トリオは、本当は自分達が弱いってことに気付いてない。気付いてないどころか、大抵の奴より強いと錯覚してる。そんな連中が、おまえや天川の要請なんか聞き入れるもんか。実力行使しかないだろうよ」

「最初に盗み聞きしたおまえは、何もしないつもりだったのか?」


 眉をひそめて問うと、向こうは両手を広げた。


「いや。中坊アイドルは知り合いでもないし知ったことじゃないが、連中の増長が気に入らなかったから、俺がぶちのめすつもりだった。……でも、今からはおまえに任せることにする」

「お、俺かよ!?」


 自分の顔を指差し、思わず声を上げてしまった。






「天川がぬるぬるのべとべとになって、挙げ句の果てに虚ろ目になったら――困るのは俺じゃなくて、おまえだろ? なら、おまえに譲るのが当然じゃないか。……まあ、マシな言い方をするなら、花を持たせてやるってことか」


 笑いもせずに、大真面目な顔で吐かすのがむかつくな、くそっ。

 だいたい、遠回しとはいえ、言い方がエラくいやらしい!

 しかし、元からこいつはこういう奴である。基本的に不良なだけあって、別に正義の味方ではない。

 

 弱い者虐めしないのも、弱い奴なんか相手にしたくないだけだと前に聞いたしな。

 そういう性格は理解しているつもりだったんだが。


「わかってるだろうが、ついでに指摘しておくぞ」


 今度こそ黒崎が、人の悪い笑みを広げた。


「仮におまえが『自分達が出て行く』という選択肢をとったとする。まあ、脱出が上手く行った場合、その選択肢で正解なんだろうが、問題は残る。外へ出て行くのを嫌がる者もいるかもしれん」

「わかってるさ!」


 だんだんむかついてきた俺は、後を引き取った。


「俺達が逃げたところで、他の女の子達に被害が及ぶのは止められないってことだろうがっ」

「そういうことだな。連中の脳内では、既に桃色ハーレム計画発動中らしいから」


 性格の悪い悪魔のように、黒崎は頷く。


「おまえがそれでもいいって言うなら、俺がゴチャゴチャ言うことじゃないが、おまえはそういうタイプじゃないだろ? だから、安易な道を選ぶ前に、後のことを考えろってことだ」

「お、おまえ、なにがなんでも俺に人殺しをさせようとしてんじゃないだろうなっ」

「いやぁ、思うところを正直に教えただけなんだが」


 粋な仕草で長髪を掻き上げる。


「くどいが、俺にあの女を助ける義理はないしな」


 しれっと言いやがる!


「まあ、どっかの段階でウザくなって、連中にちょっかいは出して放り出すだろうが、とりあえず中坊アイドルの危機に間に合わんのは確実だ。俺はスロースターターだし」


 こ、こいつっ。

 なにがスロースターターだよ!


「上等だよ、くそっ。俺がなんとかするさっ。天川さんは仲間だしな!」

「仲間? どうせなら、自分の女にしとけよ。でないと、どうせ今後、似たような場面が何度も出てくるぞ」

「アイドルなのは置いても、向こうは中二だぞっ!」


 たまりかねて俺は指摘した。

 黒崎はびくともしなかった。


「てことは、今は十三~十四歳くらいだろ? おまえが五十になった時、向こうは四十七前後じゃないか。大して違わん」

「例えの尺度がおかしいだろうっ」


 思わぬ方向へ話が逸れたが、そこで当人の天川さんが廊下に出てきて、俺は慌てて口を閉ざした。


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