表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/109

発端2 ゲームのようにこの世界を渡っていけるのは、貴方だけです

 不幸中の幸いだったが、そのごつい獣は、完全に女の子に夢中になっていて、この瞬間のみ、俺への注意はおろそかだった。


 お陰で、渾身の力で振り下ろした俺の木刀は、見事なまでに毛深い頭にクリーンヒットした。




「ギャウンッ」


 鳴き声が犬みたいになったが、俺としては感心している場合ではない。

 まだそいつは動けるみたいだし、それに額にはでっかい角みたいなのがある。あれで腹でも刺された日には、俺なんかひとたまりもない。


「くそっくそっくそっ!!」


 何度も何度も声に出し、その度に力一杯殴りつけた。

 たとえ、冗談のようなヒノキの木刀であろうと、持ってて助かった。

 角つきの黄色いそいつは、俺が殴る度に憤然と起き上がろうとしたが、さすがに十数回も木刀の乱打を受けるうちに弱り出し、最後の一撃でようやく痙攣して動かなくなった。


 ちなみに、ここに至るまでに何度か目標を外して、トイレのタイルやら女の子の身体やらに木刀が当たってしまった。


 罪悪感が半端ないが、どのみち見た感じでは女の子はもう事切れていた。





「お、俺が殴ったせいじゃないよな?」


 小心な俺がそう呟いた次の瞬間、視界の隅に表示が流れた。


《ハヤト、レベルアップ! レベル1→3。やったね!》


 ずらずらとSTR(パワーか?)やLUK(幸運?)などが数値を上げていく。なんだこれ?

 注目するうちに、さらにメッセージが出た。

 一応眼前に見えるのだが、どうも脳裏に展開された情報に思える。



《襲われていた女の子はもはや倒されましたが、ハヤトがサーベルタイガーを倒したので、両者のライフボールがそのまま手に入ります。ライフボール十三個入手。なお、女の子は復活待機リストにて、後で確認できます》



「復活待機リストぉ?」


 俺がまた呟くうちに、その黄色いサーベルタイガーと顔だけ知ってた女の子は、両方共綺麗さっぱり消えてしまった。


「マジかっ」


 なにごともなかったように綺麗になったトイレ内を見渡し、俺はまた呻く。

 どんな魔法だよ、これ。消えただけじゃなくて、血糊の跡とか、全部ないんですけどっ。


「い、いつの間にかゲーム世界に入ってるってことか! つまり、これは全てゲームで冗談である、と!」


 希望が出てきて調子こいた俺が声に出すと、またメッセージが出やがった。



《馬鹿ですか、貴方は! ゲームのようにこの世界を渡っていけるのは、貴方だけです。他人を蘇らせることができるのも、貴方のみ。他でそんなこと言うと、馬鹿にされるか狙われるかのどちらかですよっ》



「……なにこの、リアルタイム・チュートリアル? エラい斬新だな。おまけに生意気だし」


 顔をしかめた俺は、周囲をまた確認する。

 まあ、誰もいないんだけど。


「見張られているのか、俺? ていうか、幻聴と幻視だな。それ以前に、全部トイレ内で見た夢だったと! そうだ、そうに決まっているっ。死体も血の跡もないしな。大丈夫、俺はもう大丈夫だぞおっ」


 景気付けと、自信回復のためにそう叫ぶ。

 よくよく考えれば、あんなリアルな記憶が夢であるはずないのだが――。


 俺はもう、強引に寝ぼけたと思うことにして、ようやくトイレから外に出た。

 そ、そろそろ授業も終わった頃だろう、うん。

 ははは、今日も平穏な一日さ!


 現実逃避する俺は、自分の手にまだヒノキの木刀があるのを、スカッと忘れていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ