ハヤトの決断1 アイドルちゃんの下着は何色かねぇ
黒崎は廊下をぶらぶら歩き、1ーDの教室の少し手前で立ち止まった。
振り返り、俺を手招きする。
なぜか人差し指を口元に持ってきているのは、「静かにしろ」ってことか。
「この教室がどうした?」
俺は、素直に囁き声で尋ねた。
「さっき通った時、中でヤバそうな話をしてた」
黒崎が1ーDを指差す。
「まだそう時間も経ってないし、未だに密談中だろう……だから、おまえに聞かせてやろうと思ったんだ」
「なるほど!」
俺達は顔を見合わせて頷き、そろそろと前へ進んだ。
教室後部のスライドドアの手前で、立ち止まる。途端に、断片的な声が聞こえた!
聞き覚えがある、例の三人組である。
「わかったか? 三馬鹿トリオは自分達だけ、ここでダベってるんだ。間違っても、大声は出すなよ」
「もちろん!」
俺は納得して、耳を済ませた。
おお、まだ微かだが、さっきよりちゃんと聞こえるぞっ。
『おい、なんか図書室の方がうるさくねーか』
『ほっとけよ。――(聞こえず)に決まってたら』
『まあ、アレだな。今は聞かれたくない話も――(聞こえず)』
最後はリーダー格の口髭の声だな。
しかし、聞こえにくくていらいらしていると、大胆にも黒崎が、そおっとスライド式ドアを少しずつ開け始めた。
数センチ開けたところで止めたが、黒崎はそこで俺と場所を交代してくれた。
「ほら、隙間に近付いて聞いてみろ」
「助かる!」
ごくごく小さな囁き声で例を述べ、俺は場所を交代してもらった。
すると……おおっ、だいぶ声がクリアになった。
「――てことで、今晩でいいか?」
「おお、あの生意気なアイスドールに思い知らせてやろう。しかし、あのクソ女、あのハンティングナイフの扱いはなかなかだぞ」
これは真っ黄色な頭した奴の声だろうが、声に隠しようもない不安が滲んでいた。
「ビビるなって」
冷酷そうな印象を受けた五分刈りの声がなだめるように言う。
「こっちには、スタンガンだってある。それにあのアイドルだって、いつかは仲間から離れて、一人になる時があるさ。その時、わびを入れる振りして近づき、ここへお越し頂く。そこで、問答無用でスタンガンを使えばいい」
――おいこらっ。
俺が憤っていると、最後にリーダー格に見えた口髭のニヤついた声がした。
「すぐに気絶しなくてもだ、ふらついてるところで腹に思いっきりワンパン入れて、無理に眠らせるだけのこと。後は、俺達の思いのままだろ? 目が覚める頃には、三人でやりまくった後って寸法よ」
下卑た笑いの声が満ちた。
あとは「久しぶりだなぁ」とか、「猿ぐつわ代わりに、パンティー脱がして口に突っ込もうぜぇ!」とか、「いいな、それ。アイドルちゃんの下着は何色かねぇ」とか、聞くに堪えない声が次々に聞こえて、正直俺は、血管ぶち切れそうだった。
今この場で突入しかねないと思ったのか、黒崎が俺の手を引いて、その場から離れさせた。
十分に遠ざかったところで立ち止まり、おもむろに俺を見た。
「嘘じゃなかっただろ」
「ちくしょう、人間の方が遥かに始末が悪いっ」
頷く代わりに、俺は悪態をついた。
「下半身野郎どもめっ」
「いっとくけど、俺が聞いた限りじゃ、その後にもっとひどい計画もあるようだぞ」
黒崎が平然と教えてくれた。
「さっき、『まずは天川だが、あとめぼしい女も全員、やりまくるか』なんて話してたからな」
俺は呆然と元クラスメイトを見返した。
……どこまでクソッタレなんだ、あいつらっ。