狙われた舞6(終) 中坊アイドルを狙ってるらしい
謎のチュートリアルが反対しなかった以上、話すだけは話すかと思った。
口が軽い奴じゃないので、その辺も安心だし。
そこで、「あの、実はな――」とほとんど口元まで言葉が出かかっていたんだが。
よくよく見ると、黒崎はいつのまにか奇妙な表情で俺を眺めていた。
いや、本当に俺を見ていたのか実際にはわからない。なんだか、俺を通して他の場所を見ているような目つきでもあったし。
「……どうかしたか?」
「いや、まさかおまえとこんな因縁ができるとは思わなくて、ちょっと驚いていただけだ」
「さっきは平然としていたと思うぞ?」
さらに尋ねたが、なぜか黒崎は謎めいた瞳で俺を見て、またぼそっと言う。
「まあ、気にするな。それより、同じクラスだったよしみで、言っとくが」
すっかり笑顔を消してしまい、こそっと囁く。
「奇跡には必ず裏がある。なにか美味しい話を聞かされた時は、それを忘れないようにしろよ? いいな?」
沢渡さんには聞こえないよう、あえて耳元で囁いた感じだ。
それにしても、エラくタイムリーで気になるじゃないか!
「なんだよ? なにか新情報か?」
勢い込んで質問したものの、ちょうど天川さんが俺達のそばへ来てしまった。
彼女に似合わず、僅かに興奮したような表情だった。
「あの、打ち合わせはもう少しだけ待ってもらえますか? 屋上で見張っていた子の一人が、携帯用のテレビに、ニュースが流れてるって言ってるんです。これまではさっぱり受信できなかったのに」
俺と沢渡さんは、思わず顔を見合わせた。
隅っこで女子が集まり始めたと思ったら、それが原因か!
外が今どうなっているのか、そりゃ俺も聞きたいっ。今まではそんな余裕なかったからな。
「じゃあ、わたしも見ますっ。家のことも心配ですし! あと、テレビが大丈夫だったら、スマホも通じるようになってないかなぁ」
まず沢渡さんが焦って声を上げ、早速、スマホをポチポチやり出した。俺は特に家に誰かがいるわけじゃないが、一応「あぁ、なら俺も見たいな」と言いかけた。
なのに、黒崎の奴がぐいっと俺の肩を引き寄せ、「待て待て、おまえはこっちだ」などと吐かした。
記憶にないような、強引さである。
「なんでだよっ。外の情報、聞きたくないのか!」
「いや、俺は別に。それより、おまえは今だけでも、俺と一緒に来た方がいいぞ」
「なんでっ」
今度こそ強く尋ねると、こいつはまたしても俺の耳元で囁く。
いつからそんな秘密主義になったのか。
しかし、囁かれた内容を聞いて、俺は見事に身が強張った。
こいつ、冷静この上ない態度だけど、とんでもないことを吹き込んでくれたのだ。
『さっき話した、自称不良の三馬鹿トリオだが……この中坊アイドルを狙ってるらしい。どうだ、ついてきたくなったろうが?』
「え、ええっ!?」
この中坊アイドルって……そりゃ、天川さんしかいないよな……今も、不思議そうな顔で俺と黒崎を見比べているけど。
「あ、俺ちょっと用事ができたんでっ」
俺は慌てて涙ぐましい演技をした。
「すぐに済むから、テレビチェックは任せるよ」
「そう……ですか? それでは」
眉をひそめて窺うような目つきだったが、やはりテレビの方が気になるのか、低頭して女の子達の方へ駆けていく。
何度か振り向きつつ、沢渡さんも後を追った。
「それでっ」
俺は早速、黒崎と向き合った。
「今の話、本当か!?」
「本当さ。……なんなら、ちょっと確かめに行くか?」
「どうやって!?」
「ついてくればわかる」
黒崎はそう述べ、先頭切ってさっさと教室を出て行く。
ちらっと罠の予感がしたが――こいつが俺をどうにかする気なら、チャンスはいくらでもある。こいつは本気で、「いつでも喧嘩上等」な男だし。
「……それに、無視できないよな、さすがに」
自分に言い聞かせるように独白すると、俺は黒崎に続いて図書室を出た。