狙われた舞3 ようやく見つけた、最良の戦士候補なのですよ
「い、いや……ソンナコトハナイヨ?」
いかん、意表を衝かれたせいか、返事が棒読みになっちまった。
おまけに、隠れてた沢渡さんまで出てきて、「そういえば、先輩は何度か見えない誰かとお話ししていたような」などと、駄目押しの疑惑を。
しかも、二人揃ってじっとりと俺を見るのだな。
特に、アイスドールの深沈とした目つきがたまらん。「さあ、もう何もかも話した方がよくてよ?」とか無言の圧力を感じちまって……ううっ。
「わかった!」
俺は真面目腐って頷き、片手を上げて振ってやった。
「なんですか、それ?」
「わからない? 白旗のつもりだけど」
沢渡さんに教えてやったら、いきなり「うっ」と口元を押さえて、うずくまってしまった。震えているが……え、笑い堪えてんのか、この子。
アイスドールなんか、氷像みたいに眉毛一本、動かさないのに。
……というわけで、俺は老練な刑事も真っ青なアイスドールに、全て白状することにした。この子のことだから、どうせ遅かれ早かれバレると思うしな!
「おい、チュートリアル。こりゃもう、隠し通せないぞ。話してしまって、いいよな?」
『……私は別に反対しませんよ? ただ、このことが広まって困るのは、ハヤトだと思いますけど』
「嫌なこと言うなよ」
女の子二人が不審そうに見守る中、俺は思いっきり顔をしかめた。
「孔明並に鋭い天川さんに隠し通せるとは思えないし、沢渡さんをその都度ごまかすのも、いい加減胸が痛む。だから、二人は例外にしとこう」
俺なりに思うところを話すと、チュートリアル女はあっさり言ってくれた。
『それでは、彼女達にも声が届くようにしましょう。聞こえていますか?』
「……あっ」
「ひゃん!」
途端に、さっと天川さんが顔を上げ、笑いを堪えていた沢渡さんは飛び上がりそうになった。
どうやら、謎女の声が聞こえるようになったらしい。
俺は茶目っ気たっぷりに両手を広げる。
「生死を賭けた、秘密ゲームのエントランスへようこそ、お二人さん」
「ゲーム?」
「ゲームですかっ」
『厳密には、ゲームじゃありません』
最後にチュートリアルが、俺の説明を一言で否定してくれた。
『実際に人が死ぬ以上、ゲームとは呼べますまい。最初にハヤトにそう知らせたのは、その方がハヤトが理解しやすいと思ったからです』
まあ……そうだろうな、うん。
『それと、女性二人には真っ先に教えておきますが――仮にこの試練に加われたとしても、貴女達が本当の意味で、ハヤトと同じ扱いを受けることは不可能です。彼には可能でも、貴女達には不可能なことがたくさんありますからね』
「そりゃまた、どうして?」
不公平はよくないなぁという思いで訊いたのだが、チュートリアル女のため息の声が聞こえた。失礼なっ。
『ハヤト……貴方はもしかして、この私がたまたま貴方に目をつけ、気まぐれで力を貸しているとでも思っていましたか?』
「ち、違うのかっ」
『違いますよ!』
ぴしりと言い返された。
『そもそも、これまでの戦闘で生き残れたのだって、普通に考えてかなり無理があるとは思いませんか? 普通の生徒なら、今頃はどっかの段階で殺されてますよ。現に、沢渡さんがそうなりかけたように』
そう述べた後、チュートリアルは断言した。
『つまり、ハヤトは決して普通ではないということです。この私が探し出し、ようやく見つけた、最良の戦士候補なのですよ』
未だよくわからず、俺がポカンとしていると。
気を利かせたのか、天川さんが柔らかく提案してくれた。
「あまり帰りが遅れるとみんなが心配しますから、一旦は戻りましょう。詳しい話は、その後でぜひ聞きたいです」
もちろん俺は、即座に賛成した。
帰りが遅いと、不良達にも怪しまれそうだし。
「そうだな。じゃあ、タイミングを見て、詳しい説明してもらおう……というか、俺も知らないこと多いから、一緒に聞く。それに、キャンプのやり方も教えてもらわないと」
というか、そこが一番重要だな。
時間制限あるとしても、常時狙われる危険を避けられるのは大きいぞ。
……それにしても、この事件は根が深そうだな。