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狙われた舞2 アイドルに対する認識がガラッと変わった気がするぞ


「は? なにがだ?」


 口髭がわざとらしく肩を揺すり、すごんで見せた。


「いや――普段の俺なら、あんたらみたいなのは自然と避けるか、妥協できる時は妥協して波風立てないんだよ。やっぱり、後が怖いからさ」


 我ながら本気で不思議で、顔をしかめた。


「なのに、今は全然なんとも思わない。嫌悪感はあるけど、怖いとかそういう気持ちは微塵も湧かないな……なんでかな」




『そんなの、不思議でもなんでもありませんね』


 いきなり俺の脳内に、チュートリアル声が割り込んできた。お陰で反応しかけて、ちょっとキョドったじゃないか、馬鹿っ。


 俺にしか聞こえないらしいんだから、こんな時は遠慮してほしいぞ。

 しかし、向こうは全然気にする様子もなく、そのまま続けやがる。


『ハヤト、貴方が命がけで戦ったのは今日が初めてでしょうけど、生死のやりとりはそれこそ、一瞬で人を変えてしまうものですよ。だいたい、貴方の眼前の彼らが、これまで戦った魔獣達より恐ろしいと思いますか?』


「むおっ」


 いや、不覚にも納得がいってしまった。


「おお、なるほどっ」


 そりゃ魔獣とか斑点顔のダッシュゾンビとか戦うことを思えば、不良ごときはどうってことない気がするな。

 独り言にすぎないが、もちろん俺の前にいた彼らは、笑顔で頷いたりはしなかった。

 もうなんというか「ギチギチッ」と濁音が入りそうなほどに、リアルな殺気が吹き付けた気すらする。


 ニヤけた笑いがきっぱりと消えた口髭が、じっくりと俺を見つめる。


「黙り込んだと思ったら、いきなりなに納得してやがる!? おまえ、ひょっとして俺達をナメてるのか? 誰と口きいてっか、わかってるか?」


 あ、まずったかもしれない。

 遅ればせながら、俺は後悔した。

 いらんトコで波風立てちまったな……反省はしないけど。


「ああ、どうも。別に先輩方がどうのって話ではなく、自分の心境の変化に納得がいっただけなので……それで」


 密かに拳を固めている三人を見て、俺は愛想よく笑う。

 疲れたし、こんなところで無駄な殴り合いなんかしたくない。


「この刀は諦めてくれません? これのお陰で助かったこともあったし、渡したら俺が困るんですよ」

「なら、余計に俺達に――」


「皆さん、本気でしょうか?」


 呪い文句と共に前へ出ようとした真っ黄色な髪に、天川がいきなり割り込んだ。


「なんだよ? あんたもいくらアイドルだからって、いつまでも特別扱いなんかしないぞ」


 金属バットで床をコツコツ叩き、黄色頭が凄む。

 だが、天川にはまるで通じなかった。


「そんな話をしているんじゃありません」


 静かに首を振って、相手の視線を受け止める。


「わたしが指摘したいのは、たった今、中原先輩は一人で十名以上の感染者を倒したという事実です。そんな人に、皆さんが立ち向かうんですか……さっき、一人を倒すのにも手こずっていたのに?」


 穏やかな口調だけど、なんという挑発的な物言い!

 俺ですら、穏便に済まそうとして適当になだめてたというのに。


「ふんっ。そいつは、そんな強そうには見えねーな」


 リーダー格の口髭が、疑い深そうに俺と天川を見比べたものの、当の彼女はびくともしなかった。


「先程、皆さんが倒すのに苦労されていた感染者の少女だって、そんな強そうに見えなかったのでは?」

「そうですよおっ。先輩は強いんですから!」


 俺の後ろから一瞬だけ沢渡さんが叫んで、またさっと隠れたのは置いて。

 アイドルの子も、理詰めというか、慇懃無礼というか……。


(こりゃかえって、喧嘩になるんじゃないか?)


 内心で俺は危ぶんでいたが、三人は意外と用心深かったらしい。

 一瞬だけ仲間内で視線を交わし、それが合図だったかのように、口髭が踵を返した。


「今は天川の顔を立ててやるが、おまえの武器は必ず預かるからな!」


 吐き捨てるように言ったのを最後に、三人とも階段を上がっていった。

 うわぁ……なんというか、寝込みとか襲われそうな嫌な雰囲気が。

 めんどくさいから、もう合流するのやめるかねぇ……と俺が嘆息したところで、ふいに天川さんが俺を見た。




「口を挟んで、ごめんなさい」


 礼儀正しく低頭され、俺は慌てて手を振った。


「いやいやっ。喧嘩なんかしない方がいいよな、うん」


 わ、我ながら調子いいな、しかし。

 自己嫌悪に浸っていると、天川さんが上目遣いで俺を見つめた。



「さっきの三人と話している途中、中原先輩は誰かの声を聞いたかのように、一瞬だけ周囲を見渡しましたね?」



「えっ!? そ、そうだったかな? ははっ」


 いきなり、なんという鋭い質問っ。

 俺が精神的によろめくと、天川さんは駄目押しのごとく言ってくれた。


「これはわたしの直感に過ぎないので、間違っていたらごめんなさい。……でも、おそらく中原先輩には、サポート役に誰かがついてるのでは?」

「……うっ」


 この子と会ってからこっち、俺のアイドルに対する認識がガラッと変わった気がするぞ、くそっ。



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