表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/109

アイドル登場4(終) ハイヒューマン、あるいは麗人(ハヤト印象)

 もうホント、この際、きっちり話をつけるかっと息巻いたのだが、またしても階段を下りる足音がしたので、一時保留した。


「悪いが、キャンプやら買い物の話は、後にしよう!」


 また敵だったら、目も当てられない。

 しかし……今度の相手は敵ではなかった。


 斑点女とか魔獣とかなら、接近してきた途端、ふんわりとよい香りがしたりはしないだろう。

 中等部のセーラー服を着ていたが、その制服も実にぱりっとしていて、俺の制服みたいによれたところが全くない。


 髪はいわゆる姫カットと呼ばれるタイプで、眉の上で切りそろえてあり、ストレートロングの後ろ髪は腰まで伸びている。

 例の沢渡さんは可愛い系の少女だったが、この子は違う……どう見ても、麗人という方がふさわしく、正直、その美貌は同じ人間とは思えなかった。


 ハイエルフならぬ、ハイヒューマンとか、そんな人種じゃないのかと――大真面目に考えたほどだ。

 年齢に似合わない深沈とした瞳のせいか、中二にはあんまり見えないしな。

 身長高めだし、胸大きいし……胸は関係ないか。


 ただ一点! 左手の繊手に握られた大きなハンティングナイフだけが、この子の全体の印象を裏切っている。

 それあるが故に、彼女にクール系の女戦士みたいな印象を持たせていた。

 ナイフがなけりゃ、完全に美貌の聖女か神秘的な巫女さんかと誤解しそうなのに。


 しばし見つめ合った後、彼女は前髪をさりげなく掻き上げ、そっと視線を外した。ちょっとした仕草がいちいち絵になるな、この子!




「後輩の子を助けてくれて――」


 いいかけ、俺の制服を見て言い直した。


「後輩の子を助けてくださって、ありがとうございます……わたし、天川舞てんかわ まいといいます」

「あ、ああ……うん」


 テレビで何度か見たと言いかけ、俺は言葉を飲み込んだ。

 そんなの、向こうにだってわかってるさ。


「お、俺は中原隼人。こっちも今助けられたし、おあいこだろ」


 いかん、俺は美女には弱い。

 幸い、駆け足の音がまたして、沢渡さんが踊り場に来てくれた。


「先輩、無事ですよねっ」

「お、おお……もちろん。だいぶ疲れたけどな」


 俺が苦笑すると、天川さんが口を挟んできた。


佳純かすみさんによると、まだこっちに十名程度は残っていたとか?」

「いたね、うん。でも、大勢を相手にしなくていい場所だったし、なんとかなったよ」


「……その刀で?」

「そう、この刀で。いろいろと事情があってね、入手方法はちょっと言えないけど」


 多分、どこで見つけたか訊きたいのだろうなと思い、俺は先んじてごまかしておく。驚いたことに、その機微きびを読んだらしく、一瞬だけ、天川さんは素早く俺を見た。

 なかなか鋭そうな子だけど……切れ長の瞳ってのは、セクシーだなあ、しかし。




「先輩、凄く強いんですよっ」


 色ボケした俺を、沢渡さんが嬉しそうにフォローしてくれた。


「いつも自信なそうに話すのに、いざ戦うと強くて頼りになるんですっ。わたし、お陰で死なずにすみましたものっ」

「いや……まあ……いろいろ幸運も続いたから」


 秋だというのに、今日はむちゃくちゃ暑いなっ。

 焦った俺を見て、初めて天川さんがうっすらと唇をほころばせた。


 おおっ、アイドルの人に微笑んでもらったぞっ。

 日頃アイドルに興味ないくせに、俺がすっかり喜んでへらへら笑い返すと――その幸せを台無しにするような声がした。


 またしても二階から!


『ったく、めんどくせー、誰だよ、こんな面倒な連中を引き込んだのっ』

『だよなあ、ちょい文句言ってやろうぜっ』

『死ねって感じだよな!』


 胸に突き刺さる罵声と共に、階段を下りてくる。やたらとやさぐれた声の連中だった。

 ぐっ……ひょっとしなくても、屋上にいた連中の中には、不良系男子生徒もまじってたのかっ。


 正直、あんまり良い気分じゃないな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ