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アイドル登場3 あえて教えなかったのです

 しかし、ここで愚痴ったところで、仕方ない。


 やむなく俺は、刀を構えつつ、背後から迫りくる敵と正面の金属バット女達との、両方を相手にする決意をした。


 し、死ぬかもしれないが、少なくとも後輩の沢渡さんは助けられた。

 それで満足するか……。

 我ながら「諦め、はやっ」と思ったが、レベル5には荷が重すぎるしな。




 ――と思ったのだが。


 上の廊下で聞こえていた駆け足は、なぜか乱れた足音に変わり、連中の狂った喚き声がガンガン響いてきた。それと、まだ正気そうな生徒の叫び声も。

 しかも、同じく二階廊下の方から、聞き覚えのある叫び声がした。


「踊り場で戦っている人! 上の階にいた感染者は三名だけなので、こっちでなんとかしますからっ」


 りんとしたこの声は、おそらくアイドルの人だろう。


「先輩、がんばってくださいぃいいっ」


 うわっ、今度は沢渡さんの声がっ。そうか……結局俺、屋上にいた生徒達に分担させちまったのかっ。

 でも、今更意地張ってる場合でもないしな。三名なら、まだマシか。

 なにせ俺の目の前には、まだ二桁くらいはいるし――よし、そういうことならっ。


「わかった! 悪いけど、そっちはそっちで頼むっ。こっちは俺が倒すから!」


 俺は、沢渡さん達に叫んでおいた。

 これで、背後の敵を心配する必要がなくなり、刀を構え直して、金属バット女を睨む余裕ができた。




「今や、おまえ達の方が不利だと思うが、まだやるか?」


 暗に逃げないかと思って持ちかけたのだが、向こうはなにがなんでも俺達を殺したいらしかった。

 歪んだ表情で、「ジネェエエエエッ」と喚き、駆け上がって来やがった。


「はっ。悪いが、今や地の利は、俺にあるんだよっ」


 俺は横殴りで襲ってきた金属バットを上体を反らしてかわし、勢い余った女がよろめいた隙に、逆襲して剣撃を頭に叩き込んでやった。

 あっけなく息絶え、階下に転がっていく女である。口ほどにもないぞっ。


 他にも後から後からきたが、俺はさっきよりは肩の力が抜けていた。

 あくまで今いる踊り場を死守し、必要以上に前へ出ず、俺は最大でも二人までしか相手にしないようにして、歯を食いしばって刀を振るう。


 刀と敵の武器がかち合う音が何度も響き、俺が斬り飛ばした首が宙を飛んだりしたが、死亡確定すると死体が消えるので、ある程度気は楽である。

 そして、相手はもはや、馬鹿正直に階段を駆け上ってくるだけなので……時間はかかったものの、ついに俺は全員倒した!


 まだ二桁は集まってきていた敵を、曲がりなりにも全員倒したのだっ。

 戦闘終了と同時に踊り場に座り込んでしまったが、勝利には違いない。

 幸い、上の方でも複数の歓声が聞こえる。あっちでも、勝利に終わったようだ。


「こ、今回はマジでヤバかった」

 

 バテバテで呟くと、また脳天気なファンファーレが鳴り、視界に表示が出た。



《戦闘終了! 敵を一掃しましたっ。ハヤト、レベルアップ! レベル5→7。がんばったね!》



「はいはい」


 投げやりに独白し、数値の変動も見もしなかった俺だが、今度は例の女の声がした。

 俺が勝手にチュートリアルと決めつけている、彼女だ。


『おめでとう、ハヤト。今回は、よく戦いましたね。撤退中にも知らせたように、初級スキルを取得できます。それと、そろそろ独自に買い物をしたりキャンプを張ったりできるように、ここで貴方に、やり方を教えましょう』


 途端に、俺の顔は見事に引きつった。


「……は? 買い物とかキャンプって……そういう謎の退避方法があるのか? というか、そういう場所に行ける? 転移とかで?」

『その通りですとも』


 冷静な声が即答する。


『キャンプに入れば、一時的な退避が可能です。時間制限は存在しますが、キャンプ時には、買い物やスキルの選択など、戦闘状態に入らずに準備を整えることが可能ですね』

「おいっ」


 俺は心底むかつき、さっと立ち上がった。

 怒りは、時に予想外の底力を発揮し、体力限界をも無視する時がある。今がまさに、それであるっ。



「なんで最初から、そのことを教えてくれなかったんだーーーっ。知ってりゃ、あんなに必死こいて逃げる必要なかっただろうにっ」



『だって、教えたらハヤトは、キャンプに入ったまま動かなくなるでしょう? だから、あえて教えなかったのです。なにもしなければ、状況が悪化するだけですからね』


 しれっと吐かしやがったチュートリアル女だが――。



 はっきり言って、今まで戦ったどの魔獣や斑点集団よりも、今のこいつに一番殺意が湧いたわっ。



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