あまり散歩気分でまったり進まない方がよい
「ひとまず、ルートを変えてみよう!」
みんな頷いたので、俺はとっさに数歩先の分岐を、右へ入った。
そのままガンガン進み、適当に幾つか分岐を曲がったが、当初は足音が遠ざかったものの、またすぐにこちらへ近付いてきた。
明らかに尾行してきているのだ。
やむなく、少し広い場所へ出たところで、俺達は立ち止まって相手を待つ。
さほど待つまでもなく、ぞろぞろと五名ほどの男が姿を見せた。
白人系の顔立ちだが、特に体格がごついヤツはいない。その代わり、ローブを羽織ったいかにも魔法使いでございといった辛気くさい目つきのヤツもいたりして、戦力としてのバランスは良さそうだ。
うわぁ、男共が俺以外の三名をガン見すること、ガン見すること。糸引きそうな目つきでな。
「なあ、お互いに無駄な戦いは避けないか?」
なぜかうちのメンツは、みんな俺が代表だと思っているらしいので、やむなく最初に口火を切る。
「俺達は積極的にパーティーを潰して回るより、迷路のゴールを目指したいんだが?」
「なるほど」
意外にも、一番陽気そうな戦士風の男が頷く。
俺と同じく、胸部の部分鎧を装着していた。
「そういうことなら、こちらとしても無理に刃を交える必要ないな。お互い、会わなかったことにして、すれ違おうぜ。俺達はそっちへ行きたいが?」
俺達から見て、右手の方を指差す。
俺は喜んで了承した。
「わかった。どうせ迷路だしな。じゃあ、俺達は逆方向で」
話がまとまり、お互いにぞろぞろすれ違う……なぜか誰も声を上げず、葬式行列みたいに静かにすれ違おうとした。
……だが、あいにく次の瞬間、リーダー格に見える戦士風の男が叫ぶ。
「メルト! 魔法で女共を眠らせ――」
「遅いよ、おまえっ」
悪いが、この展開を予想していた俺の方が、遥かに速かった。
飛びかかるなり、問答無用で抜刀、そして存分にそいつの胴を薙ぐ。そいつが仰け反るのを待たず、あわてて杖を構えようとした魔法使い風の男の首を刎ね、さらに身を翻して後ろから襲い掛かろうとした奴を素早く斬った。
ここまでで、数秒程度しかかかっていなかったが、あとの二人はマイとエレインがそれぞれ飛びかかっていた。
「ああもうっ、しぶといっ」
……エレインの方は傷が浅かったのか、相手は呻き声を上げつつも、踏ん張って倒れまいとしていた――が。
「甘いですね!」
エレインがまた相手になる前に、横から突入してきたチュートリアルが、呆れるほどの巨大バスターソードで横殴りの斬撃を繰り出し、そいつを輪切りにしてしまった。
……この疑似ゲームで助かるのは、死体が残らないことだが、今回も自分達がやらかした惨劇の後をじっくり見る前に、綺麗さっぱり消えてしまった。
「……レベルは上がらなかったから、俺よりはレベル下ってことだな」
「長剣もらっちゃった」
エレインが会心の笑みを浮かべる。
実際、俺の方にも三人分の防具やら武器が来てるが。
同じく、戦果はあっただろうマイは、かなり暗い顔付きだった。まあ、人殺しには違いないしなあ。
俺が慰めようとする前に、チュートリアルがマイの腕に触れた。
「あまり落ち込まないようにしましょう。倒さなければ、こちらが倒されるか、あるいはロクな目に遭わないかです。手加減しても、喜ぶのは敵だけですからね」
「そ、そうですね、ごめんなさい」
マイが恥じらうように頷き、大きく深呼吸する。
「大丈夫です……ハヤトさん。ごめんなさい」
「いや、なにも謝ることないさ。俺だっていい気分じゃ」
――なかったし、と言おうとして。
俺は足元に水が流れてきたのを見て、眉をひそめた。
「え、なんで迷宮の中で水が流れてくるんだ」
みんな顔を見合わせてしまったが、もちろん正解なんかわからない。しかし、その間にも流れる水の量は多くなっていく。
「ハヤトさんっ、前方の壁が!」
マイが指差した先を見て、俺は盛大に顔をしかめた。
迷路の壁を構成する一部からスライドドアみたいなのが出て来て動き出し、分岐の一つを閉じかけている。
「左右の分岐もっ」
エレインが叫ぶまでもなく、あちこちの分岐が新たに出て来たスライドドアみたいな壁で、閉じかけていた。防火扉みたいに、侵入する水を防ぐのだろうか?
「いや、違うっ。これはもしや――」
俺が呟くより先に、、そこら中に響くような声で、混沌の声がした。
『そうだ、重要なルールを教え忘れていたな。……その大迷宮は、あちこちに罠が仕掛けてあって、時間の経過と共に水没したり燃え上がったり、底が抜けたりするぞ? あまり散歩気分でまったり進まない方がよい』
無情なセリフに、俺達は一斉に顔をしかめ、駆け出した。
誤字脱字をまとめてくださった方、ありがとうございます。
一度に直すと大変そうなので、更新の度ごとに少しずつ直します。
重ね重ね、ありがとうございます。




